旅立ちの支度はだいたい整った。出発は、明日だ。出発直前になって、意外な気持ちが湧いてきた。
おとといだったか、自転車で家に帰る途中、後頭部にボールをぶつけられた。こどもたちが遊んでいて、通り過ぎるときに彼らに冷やかされたので、そのうちの一人が投げたのだろう。わたしはふり返らずに、そのまま走り去った。痛みはまったく感じなかったけれど、もちろん非常に不愉快だった。でもそれをきっかけに、この地を永遠に去ることになることに対する、喜びのようなものを感じたのだ。もう二度と、あのこどもたちに会うことはないし、野蛮な態度をとった町中の人たちともおさらばだ。受け入れがたい異文化とも、さようなら。なんだか清々しい気分になってきたのだった。
思えばクミシュテペに来て以来、親戚、職人、隣人、いろいろな人間とのあいだでうまくいかないことの連続だった。気の置ける人が一人もいないという状況は、じわじわと疲れがたまる。ここに住んでいた時間の多くは、正常に機能しない家、一向に造られることのない塀、すぐに壊れる諸々、というポンコツな状況で過ごした。そういう環境に慣れることはできたけれど、下らないことにつねに振り回されている感じは拭えない。ここ1~2年は落ち着いていたものの、そんな生活のネガティヴな側面もついには終わるのだ。いいじゃないか。
二階の部屋のドアを四枚、塗り終えた。自分が使うことも、お客さんを迎えることもなくなったこの家だが、やはり自分の家なので、自分で整えておきたかった。それに、いずれにしてもペンキ塗りは、この季節にやっておくべき家事だったのだ。
寝室
二つある寝室の窓やドアに、カーテン(白い布)を吊るして外からの光や視線を遮った。昨日の朝、布を12メートル買ってきて、8枚のカーテンを縫ったのだ。カーテンレールも数日前に設置しておいた。
サロン
サロンの窓二つと、玄関にもカーテンを吊るした。そしてカーペットを戻した。大きなオールドキリムを買ってあったのに、結局これを楽しむこともなかった。
奥が台所
あとはカーペットの調整など、使う人がやってほしい。敷いたカーペットが歪んでいるように見えるけれど、トルクメンの家はこのくらいの緩さで敷かれているので、わたしも放っておくことにした。
この二階に住んでいるときは、壁はセメントを塗っただけの部分と白塗り工事が途中のまま放ってある、おそろしく貧しい様相の部屋だった。カーテンも下げてここまで整えたときに、わたしはもういなくなる。なんともいえない状況だが、そうなったのだった。
追記:
階段のペイントは、ついに諦めました!
http://sabakujin.blog.shinobi.jp/Entry/681/直前の意外な…