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砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   
カテゴリー「トルクメン・イラン」の記事一覧

チュズムチ

高校を卒業する姪から、チュズムチの仕事をもらった。チュズムチとは、トルクメン刺繍のための図案を描く職人のことだ。月曜日に「水曜日までにアンナック用の模様を10本描いてほしい」と依頼があった。つまりは、二日のあいだに10本を描かなければならない。家事や鶏の世話の合間にできるだろうか? と思いつつも、これは自分のトレーニングになると思い、引き受けた。わたしの作図が上手だということで、相場よりも高い値段を姪が交渉してきてくれたのだが、それは自分の店の商品を作る際にわたしが支払う金額よりも低かった。


できました、10本。10種類の模様を描くつもりだったが、途中で断念して5種類の模様を2本ずつ描いた。描きながら、アンナックは誰が刺すのか、どこからこの仕事をもらってきたのかなど、姪に聞いてみた。これらは学校に持っていって、彼女と同じくデザインを習っている学生が刺すそうだ。これを持っていくと、姪のポイントがつく(?)というので、「ワタシが働く、アンタの査定が上がるアルネ!」などと恩着せがましく言ってみたのだが、彼女は「?」といった顔をしていた。それもそのはず、後でハリルに聞いたら、これらは彼女たちの試験に使われるそうだ。つまり、学生がそれぞれの色で刺繍を施して、それが採点されるということだった。わたしのトルクメン語が未熟なために、こういった会話の成り立たなさはよく起こる。

ざくろ

名称分からず

鳥の羽

ハート

名称分からず

ちなみに、試験を受ける学生がこの模様の描かれた布を買うそうだ。わたしの報酬は、彼女たちからもらうことになる。
描くだけならまだしも、この布を縫うのも仕事のうちに入っていて、その方がよっぽど時間がかかった。しかも、布代はわたし持ち! 余った布で作ったので、問題ないけれど。

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ラマダン

今年のラマダンも、ついに最後の日となった。ラマダンとはイスラム教の決まりで、一年のうちの決められた一ヶ月間、日が昇っている間に飲食を断つことだ。イランはイスラム共和国なので、国の決まりとしても断食をしなければならず、犯せば罰せられるそうだが、テヘランでは隠れて食べている人も結構いると聞いている。病人、旅人、重労働をしている人など、断食を免れる場合もあるというものの、田舎のクミシュテペではそういう雰囲気はない。いずれにしても、ラマダン中の断食は、当然することであって、ムスリムにとって「やる/やらない」の選択肢はないのだ。
「よく断食なんかするね。」
「わたしにはムリ。」
この二つがムスリムでない人がラマダンについて感じる最たるものだと思うが、これはムスリムからするとまったくナンセンスな考えだろう。なぜならば、上に書いたとおり、断食をするかしないかは自分で選ぶことではないし、断食には「ムリ」なことを日々強いられている人々の気持ちを理解するという側面もあるので、「わたしはムリ」と言う人ほどそれを経験すべきだとも言える。実際に飢えている人間はこの世界には大勢いて、彼らは夜になっても明日になっても、喉がカラカラのまま日々を過ごさなければならない。そしてひょっとしたらのどの渇きが癒されないまま、命が絶えることもあるだろう。そういう境遇にある人間について、思いを巡らせることは大事なのだと思う。

サチャック


さて、これは何でしょう?


正解は、パンを包んで保管しておくための布でした。トルクメニスタンからのお客さんにお土産でいただいたものだが、ラクダの毛で織ってあるので、アリなどがつかないとのこと。クミシュテペでは家の中をアリが歩いていることはアリがちだが、トルクメンの住む砂漠一帯でも似たような生活なのだろう。わたしは食べかけのパンはすぐに冷凍してしまうか、放っておいて固くなったら動物の餌にするかしていたけれど、しばらくこれに包んで保管してみようと思う。トルクメンはパンを直接テーブルクロスに置くし、直接布を巻いて保管する。うちでは竹のカゴに入れて食卓に出すことが多いので、カゴごと包んでしまえばよさそうだ。


色味もすてきなこの布は、テーブルクロスと同じくサチャックと言う。綿のテーブルクロスを巻いてパンを保管するのも一般的だ。

トルクメンの靴下

気候が変わったので、衣替えを始めている。冬物のセーターなどを洗濯して、虫がつかないようにビニールの袋に入れたあとスーツケースに入れて、クロゼットにしまう。衣替えついでに衣類の断捨離もしたのだが、その際、ずっと放ってあった2~3足の靴下を見つけた。

これは市場で買ったもので、トルクメンの手編みの靴下。素材はウールではなくアクリルのような化繊である。数回履いたような感じだが、まだ新しい。

これも市場で買ったものだが、トルクメンのものかペルシャ人のものか、それ以外か、まったく分からない。けれど、トルクメンの伝統的な手仕事を売っている店で買ったので、トルクメンの可能性が高い。それにしては、非常にモダンな色柄だけれど。
数年前、トルクメンの手編みの靴下を日本で販売しようと思っていて、いろいろ調査していた際に買った2足だが、よく見ると青い方はかなり日焼けしているし、靴下を扱う気は今はないので、洗濯して来年自分で履くことにした。

これも典型的なトルクメンの手編みの靴下。トルクメニスタンの人におみやげでもらったものだ。自分で履いていたのだが、かかとの部分がほつれてきたので、これも来年直して履こうと思っている。しかし編み直し方が分からないので、かがるだけになりそうだ。
しかしトルクメンの仕事は大概において雑だと感じることが多いのだが、女性の手仕事となるとなぜこんなにも緻密なものができあがるのだろう。特に刺繍と編物はそう。本当に不思議でアルヨ。

最後に、古いスーツケースの上に乗っているのは、わたしが持っているスカーフのすべて。数えたら18枚もあった。ろくに被りもしないのに、よくもこんなに集めたものだ。自分で買ったのは半分くらい、もらいものが半分。しかも、この他に未使用のスカーフがまだ何枚もある。これらは断捨離しがいがあるが、するつもりはない。これからとっかえひっかえ被って、クミシュテペのファッションリーダーを目指すことにする。

縫製のこと

今日は水曜市場でバラック用の布地を買い足した。市場は、町の中心にあるいくつかの通りに毎週一回、屋台がずらっと並ぶ。生地屋さんや絨毯用の糸、民芸品などの店はうちから一番遠い一角にあるので、たいていハリルにバイクで連れていってもらい、そこから市場をひととおり歩いて自宅に戻っている。
いつも行くのは、トルクメニスタンからの品物も置いている店だ。置いているとはいっても、バラック(ズボン)以外はたいしたものはなく、過去に掘り出しものを見つけた記憶もない。けれどバラックは、地元のものも含めてたくさん扱っているので、今日は既製品をチェックしてきた。わたしがずっと取り組んできた「品質」の一例が、一目で理解してもらえると思う。

緑色の生地に大きな刺繍が施されたすばらしいバラック。これは、「クモ」の模様だ。もちろん、手で刺したもので、色づかいも伝統を受けついでいながらもモダンであり、すてきだと思う。値段は飛びぬけて高いけれど、これなら自分用に買いたい。しかし問題は、バラック事体の縫製なのだ。

バラックを裏返すと、こうなっている。これは決して雑に縫ったものではなく、クミシュテペのスタンダードなのだとわたしは結論づけている。見る人が日本人なら、ほぼ同じ印象を抱くと思うのだが、どうだろう? けれども、きちんと縫ってあって、ほつれてくるわけではない。下着なので、布地が擦り切れるまで履いて、擦り切れたところは新しい布で縫い直すことのできる作りになっている。実際に、縫い直して履いている人がいるかどうかは、はなはだ疑問だが。
そんなわけで、縫製は自分でしようと誓いを新たにしたのだった。ものすごくハイクオリティを求めている訳ではないけれど、このクミシュテペクオリティは、わたしの店に置くわけにはいかない。

しかしクミシュテペには、独自のクオリティがある。今朝は早くからナーセルの奥さんがうちに来て、鶏を一羽持っていった(目が覚めて寝室を出たら、玄関のたたきに人が立っていて、思わずのけぞった!)。トルクメニスタンからお客さんが来ているので、なにかご馳走をこしらえようという話が昨夜まとまったそうなのだ。ハリルが雄鶏を捕まえて、袋に入れるかと思いきや、奥さんは羽をクロスさせて飛べないようにし、そのまま持っていった。「コケーッ!」と叫ぶ鶏をぶら下げて、15分くらいだろうか。


あばよ!

チュズムチ

下絵を描いたズボンを、義母に渡してきた。昨日は、電話で仕事があるかを問う彼女を危うく怒らせるところだったので(いや、怒ったかも)、早いうちに挽回しておこうとがんばった。

これはバラック(ズボン)の裾に、刺繍のための下絵を描いたところ。ズボンを縫うこと、下絵を描くこと、刺繍を刺すことはまったく別の作業で、職人はそれぞれ別にいる。布を縫う人を「ハイアーティ(ペルシャ語)」、下絵を描く人を「チュズムチ」、刺繍をする人を「ディキンチ」と呼ぶ。わたしの下絵描きはまったくの自己流なので、そのうち本職の女性がどうやっているのかを見たいと思っている。
布に描くためのペンは、日本から持ってきたPILOTのフリクションボール(温度差で消えるペン)を使っている。布に描く前に、参考にする図案を紙に描いてみて、縦横の比率や曲線の角度などを勉強している。今のところ分かってきたことは、チェーンステッチの1本を1.5mmくらいに換算して描けばいいということだ。非常に細かい刺繍なので、適当に線を引いただけでは刺し手が困る下絵になってしまうのだ。計算機を手元に置いて、指で本数を数えながら作業している。トルクメンがそんなことをするはずはないのだけれどね。


お手本にしたバラック

今回バラックに描いた模様は、「スカーフ」の模様だそうだ。これは、スカーフにプリントされたペイズリー柄をモチーフにしたに違いない。トルクメン刺繍の模様はほぼすべてが幾何学模様なので、変形してしまって独特の形になったものも多いのだが、模様の名前そのものが見いだせるものもある。
バラックの伝統的な作り方は、初めに裾の部分だけを縫い、刺繍を仕上げてから、それより上の部分を縫い足す方法だが、最近では最初から一枚の布でズボン全体を縫った後で、裾の刺繍をしている人も多いようだ。
昔のバラックは、手織りの赤い生地に草木染の絹糸で刺繍を施していた。しかし今ではその布はまず手に入らないので、綿または綿に近い素材の布が使われている。生地は暗い色が好まれ、下絵は白いペンで描かれる。驚いたことに、日本のメーカーのペンがクミシュテペでも売っていた(その製品は、日本では売っていない)。しかし義母は目がよく見えず、暗い色の布に暗い色の糸で刺すのが大変なので、このごろは明るい色の生地を好んで刺している。生地や用途によって巧みに変化する彼女の色づかいは、容易にできるものではない。真似しようと思っても、それすら難しいだろう。


今日買い取ってきた刺繍

最後の最後で緑と青を見まちがえたようで、均等でない箇所もあるのだが、指摘してもなお違いが見えなかったようだ。でも、86歳のパッマダイザが刺したこのタブローには、その価値がある。額に入れて家に飾りたいと思っている。本人は売る気満々だったのだが、お店としては迷うところだ(笑)。

折りたたみバッグ

問題です。これは何でしょう? って、タイトルに書いてありますが。

開くとバッグになり、ポケットにはトルクメン刺繍を施してある。

刺繍はテープではなく、ポケットに直接刺してある。緑の線に囲まれた四角は、一辺が2センチなので、一針がどのくらい細かいか分かるだろう。チェーンステッチなのだが、一針は1ミリ以下の間隔で繋がっている。


別の配色

次回は、ぐっと品質を上げて、刺繍の民芸品を日本で販売したい。トルクメンの女性が刺繍をするのは、趣味ではなくて、収入のためなのだ。わたしがそのことにはっきりと気がついたのは、この1~2年のことだ。もちろん、刺し手は数ある手仕事の中から刺繍を選んだくらいだから好きでしているのだろうけど、お祝いなどのプレゼントでなければ、ただでは刺してくれない。刺したら、お金にするものだからだ。仕事をしたい女性はたくさんいるので、日本でわたしが市場を開拓できれば、地元の女性の収入を増やすことができるだろう。それが産業となれば夢のようだが、今はそんな大きなことは狙わずに、まずは去年より多くの製品を作り、より多くの人に知ってもらう方法を探っていきたいと思っている。
しかし現実は、限られた条件の中で模索するばかりで、なかなか厳しい。地道に進むのみだ。

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プロフィール

イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

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