忍者ブログ

砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   
カテゴリー「トルクメン・イラン」の記事一覧

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

手さげ

四日間の犠牲祭も終わり、秋の気配がある。ときどき雨が降って、空気がひんやりしてきている。わたしは刺繍作品の製作作業のピッチを上げなければならないだろう。まだ手探り状態のズボンがたくさん残っているけれど、今日は二つの小物を仕上げた。


手さげ

これはお財布だけ入れて持つような、小さな手さげだ。縫いつけた刺繍はもちろん義母が刺したもの。鳥の翼の図案だそうだ。


何度見ても、鶏の足にしか見えない(笑)

色違いの手さげにしたこの図案は、名前をまだ聞いていない。幾何学的な模様にも、「斜め」とか「渦巻き」のような呼び名がたいていついている。
ピッチを上げたいのに、今日はこの二つの作業をしたら終わってしまった。うっかりすると、義母の刺繍作業の方が早そうだ。

PR

犠牲祭について

犠牲祭のイスラム的起源などについては、わたしも詳しく知らないので残念ながらここに書くことができない。けれど、クミシュテペに住んで数回の犠牲祭を経験してみて、今回初めて感じたことがあった。
クミシュテペには、砂漠に住む羊飼いもいるし、町に住んでも家畜を飼っている家が多くある。家畜とは離れがたい暮らしが行われているのだが、だからといっていつも食卓に肉が上がるというわけではない。家畜は財産なので、よっぽどのお金持ちでない限り、普段の食用には殺さない。せいぜい鶏を絞めるくらいだろう。年に一度の犠牲祭や結婚式・葬式の際、またはお客さんが来たときに限って家畜を屠る。多くの貧しい家では、普段は店で冷凍の鶏肉を買ってきて食べている(じつはうちも去年からそれを始めた)。店で売っている鶏肉は「アークタウォク(白い鶏)」と呼ばれ、工場で育てられたものなのでお金持ちはまず食べない。とはいえ、その白い鶏は、日本では普通に食べられているものと同じだと思うのだが。
工場で育てられた鶏と、砂漠で育った羊(または牛)はなにが違うのか。それは単純に、家畜が食べている餌と運動量が違うため、肉の質が違う。放牧されている羊は、人間が触ったことのない野草を自分で歩いて探して食べて過ごす。大麦やふすまなどを与えて足りない栄養分は補うけれど、それも家畜の持ち主が自分で選んでやるので、なにを食べて育ったかが分かる分だけ安全だ。工場で大量に育てる鶏は、売るためになるべく早く太らせるさまざまな工夫がなされるので、その中には食べ手にとってよくないものも含まれる場合がある。
砂漠で放牧された羊や庭で飼われた鶏はよく運動して生きているので、筋肉や繊維が発達していて、少し火を通しただけでは硬くて食べにくい。だから、トルクメンの料理には、最初に油で揚げてじっくり煮込むものばかりなのだと思う。そうすることで肉が柔らかくなり、風味のある料理ができあがる。短期間で育てられた肉は(これは野菜も同じことなのだが)、繊維質が発達する前に肉や脂が肥大するので、やわらかくて料理はしやすいけれど、食べた人の体もそういった質になってしまうとハリルは言っている。欧米で体が肥大している人たちは(先進国に限らず、手頃な肉が手に入る国はいまやどこも肥満があるけれど)食べ過ぎだけでなく、食べている肉の質がそうさせているのだそうだ。
話が肉の質の話にそれてしまったが、そういったクミシュテペの肉事情があるので、犠牲祭に牛や羊を殺して大量の肉を取ることは、普段の食事の質を上げることにもなる。このお祝いは当日だけでなく、それからしばらくのあいだのタンパク源を保証してくれることになるのだ。だからわたしも、新鮮な羊の肉がようやくまた手に入る! と犠牲祭の前には気分が高まった。そしてこのお祝いが、店から肉を買ってくるだけのものだったら、これほどありがたいと思えたかどうか。店で好きな種類の肉をいつでも買える環境にあったなら、肉の出どころやありがたみについては忘れてしまい、自分の摂りたい栄養のことや、味わいたいおいしさのことしか考えなくなってしまうだろう。原始的な暮らしをしているからこそ、祝い事もその本質により近づくことができるのかと思った。日本でのお祝いはほとんどが形骸化してしまっているので、これほど暮らしと結びついていると感じられるものはなくなっている。ほとんどすべての祝い事は、それにちなんだ商品を買ってきて乾杯して済ませてしまっているような気がする。それともなにか、あったかな?

犠牲祭

犠牲祭は、トルクメンにとって一年のうち最大のお祝いだ。クミシュテペでは、牛や羊を自宅で殺すのが一般的で、お祝いのあいだは肉・肉・肉料理とあまいものをたくさん食べる。
今年もうちは羊一頭、ナーセルの家も一頭、義母も一頭を犠牲にした。二年の牡羊だったので、驚くほどたくさんの肉と脂が取れた。今年一年は羊飼いを雇わずにハリルとナーセルが羊の世話をしたのだが、この十数年のうち初めてこんなに肥えた羊を見たとナーセルは言っていた。ハリルは自分がマネジメントしたと鼻高々だ。

ナーセルが羊の首を切り、皮を剥ぎ、大きな部位に解体してくれた。ハリルは例によって自分の家畜を殺すのが耐えられないようで、外にも出てこなかった。手塩にかけて育てて、生命力に溢れていた羊をどうして殺さなきゃならないのか、などと言っていたが、肉にするために育てているのだから仕方がないだろう。「来年から犠牲はやめる? わたしは魚を食べて生きてもいいけど?」と言うと、「そうしようか…」と。そうかと思えば、翌朝、朝食に卵を食べるかと聞いたら、「いらない。肉が食べたい!」と言う。じつは、肉のために冷凍庫を整理して空けようと、わたしは初日に肉を料理しなかったのだ。せっかくの肉祭りだからと思い直し、朝から急いで肉を煮た。羊の脂を火にかけて、たまねぎとにんにくを揚げ、肉も入れて揚げて、そのまま肉から出る水分のみで長時間煮込む。最後に塩を少しふってできあがり。これがトルクメンの伝統的な食べ方だそうだ。

生のたまねぎを添えて、パンとともに食べる。脂の甘みが感じられて、格別のごちそうである。そのあとこれを消化させるためにあまいものを食べ、出かけた先でまた肉を食べ、あまいものを食べ、満足感は最高潮に達する。一日で二重あごになったような気がしてくるが、これはこれでいい気分なのだった。

バラック

先日、パッマダイザ(義母)のところへバラックを買いに行ってきた。バラック(ズボン)は、トルクメン女性が民族衣装であるワンピースの下に履いている下着のことで、その裾には刺繍で細かい装飾がなされている。来年東京で開催する予定の個展では、これをメインに展示しようと考えている。

この中から気に入ったものを十四点、買ってきた。パッマダイザは8ヶ月のあいだにこれだけを縫いあげていた。ほかにも親戚に贈るためのバラックや、孫たちがお祝いで着るためのドレスにも刺繍をしていたし、わたしが頼んだ小物も刺していたので、仕事量がどれだけ多いかが分かると思う。
さて、買ってきたものはじつはズボンの形になっていない。膝下ほどの、刺繍がなされた二本の裾なのである。そこからウェストまでの部分をつけるのは別の仕事なのだが、例によって縫製作業をトルクメンに頼む勇気がわたしにはないので、自分で縫うことにした。パッマダイザが縫い方を教えてくれたが、定規の代わりに「手」、待ち針の代わりに「針と糸」という原始的な方法だったので、講義の途中で(これは自分で縫い方を探るしかないな)と覚悟を決めていた。そして今日一日かけて、初めての一本を縫いあげた。


バラック一丁できあがり!


裾(パッマダイザ作)

これはなんの模様だったかまだ聞いていないけれど、すべての模様には名前があるようだ。
このバラックにはひとつ特徴がある。股の部分に四角い布が一枚縫い合わせてあって、いわゆる「サルエルパンツ」なのだ。初めて履いたときは、一体どうして股の下にこんなにだぶだぶとぶら下がる布をつけるのだ? と思い、履きにくいのでしばらく放ってあった。ここでの暮らしにも慣れた頃、思い出して履いてみたら、今度はその股の部分の効能がよく分かったのだった。これがあると、かがんだり飛んだり走ったり、なにをしてもワンピースの下でズボンが邪魔になることがない。足首に近い裾の部分だけがピタッと脚に沿い、あとは腰骨に引っかけているゴム以外はゆるゆるとしているので、夏でも風通しがよく、スパッツを履いているときに感じる不快感がないのだった。


禁断の秘部を大公開(ゴムを入れてきゅっと絞って腰骨で履く)

ちなみにクミシュテペでワンピースの下に丈の長いものを履いていないと、ノーパンと見なされ、はしたない女だと烙印を押されるので気をつけなければならない。一定の年齢以上の女性は、例外なく刺繍の施されたバラックを履いている。このバラックは、全体を写真に撮ってしまうとおばちゃんパンツだが、ワンピースを着こなしているトルクメン女性の裾にちらちらと見えるこの刺繍は、なかなか粋なものなのだ。個展では、きっとわたしが民族衣装を着こなしているので、ぜひお越しください(言っちゃった!)。

ケンドゥルックを直す

雨が降ったり気温が下がったり、クミシュテペも夏が過ぎ去ろうとしている。それでも日中はまだ気温が30℃くらいはある。布団や絨毯を洗うなど、後回しにしている仕事をさっさとやっつけてしまう必要がありそうだ。
何年も放ってあった仕事のうち、ケンドゥルックを直す作業に取りかかった。ケンドゥルックはトルクメンのベーキングマットで、二枚の布を正方形に縫い合わせたものである。トルクメニスタンからのお客さんにいただいて使ってみたものの、二人暮らしのうちには大きすぎたので、同じ形の小さいものを自分で縫って以来、大きいものは使わなくなっていた。それを大家族のナーセルに譲ろうかと思って洗濯してみたら、布が縮んで縫い目のあいだに大きな歪みができてしまい、いつか直さなければと思っていたのだ。以前に買ったブールックもそうだったが、トルクメンの縫製技術にはいつも仰天する。


縫い直したもの

縫い目に注目してほしい。中心から放射状に出た8本の線は新しく縫ったもので、黒の点々でトレースしたのがもともと縫ってあった線だ。テレビでも見ながら、足で布を送って縫ったんだろうか? 縫い線が曲がっているだけでなく、上糸も下糸も調整されておらず、ひどい縫い目だった。しかも目の幅を最小に設定したのか、1ミリ以下の細かい目だったので、解くのに二日もかかってしまった。三日目にようやく縫いあげることができた。


10cm切り落として、90cm四方になった。普段使っているのは60cm四方のもの


どこもかしこも丁寧に縫い直しました


端の縫い目もすごかった(笑)

これで一つ片づいた。この調子で次の仕事に取りかかろう。

チュナールなど

今日はパッマダイザ(義母)から、刺繍の新作をもらって帰ってきた。白地のチュナールだ。


チュナール

まだアイロンがけをしていないので皺くちゃだが、想像以上の出来だったのでわたしは興奮した。ところがパッマダイザは、この生地は非常に縫いにくいというので、白いチュナールはこれ以上頼めなくなってしまった。茶色と同じリネンの生地だと思っていたのに、微妙に手触りが違うのだそうだ。


中央の模様

縫いにくいこの布は、懲りずに別の刺し手に頼んでみようと思う。
それから別の作品のために頼んでいた、ワンポイント刺繍もできあがっていた。

手前のは、鳥の羽の模様で(足ではない)、伝統的なデザインだという。これは折り畳みができるバッグのために刺してもらったのだが、義母が布を折って二枚重ねて刺してしまったので、予定どおり縫製ができなくなってしまった。それにしても刺繍はよくできていて、なんともいえない味わいがある。畳めるバッグはまた別に作るとして、この刺繍は別のものに仕上げることになりそうだ。小さな額に入れて飾るのもいいかもしれない。
わたしが「えー! なんで二枚重ねて縫ったの!」と思わず叫んでしまったら、義母は「よく分かっていなかった。ごめんね」と謝っていた。お互い考えていることややり方が少しずつ違うはずなので、意思疎通をはかるのは一朝一夕にはいかない。けれど、こうやって齟齬しながら一緒に作業することが、わたしにとっては大きな糧になっている。外国人として表面的なつきあいが多い中、トルクメン社会や家族により深く関われるように思うからだ。

ペンケース

義母パッマダイザの次女、ハリマが刺繍を手伝いたいというので、手始めにペンケースを刺してもらった。ハリマはハリルの妹で、四人のこどもがいる。息子たちは働いたり兵役に就いていて、一人娘も最近嫁いでしまったので、家には夫と中学生の息子が一人だけになり、手仕事をする時間が増えたようだ。
ペンケースは小さな布にジッパーをつけて渡し、刺繍をしてもらい、それをわたしが袋にして裏布をつけて仕上げている。


ハリマから戻ってきた刺繍

これは、新月の模様だそうだ。できるかぎり伝統的な色合わせをしてほしいとリクエストしたら、こうなった。


右から二番目の模様は「曲線」

今のところ4枚を自由に刺してもらった。一番左のは蛍光の黄色なのだが、これはちょっとどぎついイラン的なので、日本人が好むかどうかは意見の割れるところだろう。どうしてこの色を選んだのか聞いたら、本に載っていたのだと言っていた。それでも一色で刺したということは、ある程度バランスが考えられていると思った。

上の写真は、わたしのペンケースとその中身。義母が刺したものだ。ハンドバッグにも入る、小さな「おとなのペンケース」を想定して作っているけれど、開けてみたらわたしはこんなにも詰め込んでいた。飲みもので汚してしまったので一度洗ったこともあるが、とくに問題なく使えている。


これも「曲線」

ハリマも母親譲りで刺繍のセンスがあるようなので、安心した。ところが最初の作品はナーセル経由でうちに届いたのだが、外階段の踊り場にこういう状態で置いてあった。


ゴミか!

素材はジップロックに入れて渡したのに、ハリマは新聞紙にくるんで言づけたようだ。新聞紙が素材より小さくて、中身がきちんと包まれてなかったし。頼むよー。

プロフィール

イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

P R

Copyright ©  -- 砂漠人5 --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Photo by Geralt / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]