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砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   
カテゴリー「さばくの民芸店」の記事一覧

作業再開

いくつもの季節を経てしまったが、ついに刺繍作品の製作に取りかかった。正確には、製作を始める前に、未払いの刺繍の精算などやりかけの仕事を始末しなければならない。

パッマダイザ(義母)による刺繍。バラック(ズボン)になる予定

同じく義母による刺繍

別の刺し手によるもの。袋物になる予定

しかしここで、残念なお知らせがある。87歳になった義母は、この夏に視力が一段と悪くなり、ついに刺繍をすることができなくなってしまった。もう手元が見えないのだそうだ。したがって、これらのバラックが彼女の最後の作品となった。
一日の多くの時間を刺繍に費やしていた彼女なので、今はどうしているのだろう。ごぶさたしているので、明日にでも訪ねてみるつもりだ。食事もお茶も大した量を摂らないから、刺繍をしなくなったらお祈りが唯一の日課になっただろうか。前回、これまたひさしぶりに訪ねたとき、「どうしたんだ! スウェーデンに戻っちゃったみたいじゃないか~」と怒られた。明日もまた怒られそうだ。
封印していた作品らを開けて、作業を再開した今日、偶然にも別の刺し手から数ヶ月ぶりに電話がかかってきた。彼女はわたしが一番のひいきにしている刺し手なので、彼女だと分かったときは躍り上がりそうになったが、電話の内容は期待とは裏腹に、役所で仕事を得るために勉強しているとのことだった。試験に受かってほしいけれど、受からなくてもわたしはうれしい。もう刺繍はしていないとのことだったので、再開してもらえる可能性が出てくるからだ。
あらゆることは、運命に従って流れていくだろう。わたしも細々とさばくの民芸店を続けたいと思う。

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ペンケース

ペンケースの縫製にようやく取りかかった。刺繍はだいぶ前に指し手から納品されていたのだけれど、長いあいだ放ってあったのだった。

今年は、刺繍の刺し手をかなり選んでいる。わたしが惚れ込んでいる刺し手は今のところ一人いて、上の赤・黄・白のペンケースは彼女が刺したものだ。彼女はこのあたりでも一番の刺し手なので、お祝い用バラックの注文が絶えず、仕事を頼むのは容易ではない。


このスティッチの細かさ、正確さ

上の模様は「ゴチョック」と言って、オスの羊の角を表わしている。一見、ハートに見えるのだが、黄色だけ、白だけに目を凝らすと角の姿が見えるかもしれない。

この模様は、カタツムリ。いかにもトルクメンらしい模様で、たしかにカタツムリ的だ。

縫製したのは全部で10個。まだ裏地をつける作業が残っている。新作はこれしかできていないけれど、ペンケースをさらに作るかどうかは検討中。今はバラックとチャイガップ(茶袋)に集中して作っている。このペンケースは「大人の小さなペンケース」をイメージして作っているのだけれど、友人が言うにはメガネケースにもぴったりだそうだ。それを聞いたので、裏地はなるべく厚めの布をつけようと思っている。
じつは、急用ができて、来月日本に帰国することになった。今年は夏に帰国して刺繍作品の販売をしたいと思っていたのだが、帰国が早まったことで販売はできなくなりそうだ。とても残念だけれど、いまは作品製作も迷走中なので、時間をかけてより発展させたいと思っている。ちなみに、急用とはわたしの歯医者です。一ヶ月ほど、千葉県の実家に滞在する(ハリルは最後の二週間だけ合流)ので、集まりがあったら誘ってください。

バラック

義母に刺繍をしてもらったバラック(ズボン)が仕上がったので、3~4本まとめて受け取ってきた。そのうち二つを紹介したい。


「スカーフ」の模様(ペイズリーのことだろう)


「ザクロ」の模様

ペイズリーの方はモダンな色使いで、ザクロは古典的な色使いだ。組み合わせは古典的なルールに則っているものの、義母はそれぞれの色味を少しずつ変えて、すばらしい配色をしてくれたと思う。
これらのバラックはまだ上半分を縫っていないのだが、ザクロの方は裾口も広いので、大きめのサイズになる予定。脚の長い方、大きめサイズの方、ぜひどうぞ。二本限定で販売予定です。


これはわたしも買いたい!

おまけは、ハリルが市場で買ったほうきの写真。芸術的でしょ?


実用品です

キンドル・ケース

チャイ・ガープ(茶袋)型のキンドルケースがようやく完成した。はじめてのスティッチを二つも習ったし、配色も納得のいくまでやり直したので、一ヶ月以上はかかったと思う。


最初にした配色

最初の配色は、黒と黄色の対比や全体的に原色を使ったカラフルなものだったので、トルクメンというよりは「アフリカ」的になってしまった。悩んだ末に、配色を直した。黄色やピンクを解いて、トルクメンの伝統的な配色に近づけた。

そして義母が刺したチュナール(縁の刺繍)も解いて、新しい色で刺してみた。ところが今度は、チュナールの配色が「ギリシャ」的な雰囲気を出してしまった。


裏地も赤に変更した

チュナールの糸の太さも、太すぎたり細すぎたりしてうまくいかなかったので、またチュナールを解いた。刺繍糸は、巻かれたものを店で買ってくるのだが、トルクメンはそれをきれいに撚って、さらに細い糸にしてから刺繍を始める(そのままでは使い物にならない)。最近よく分かったことなのだが、糸を撚る作業は、刺繍を上手にすることに大きく関わっているようだ。上手な人とそうでない人の違いの一つに、糸の撚り具合がある。
普通のチェーンスティッチは二本の糸を撚るのだが、チュナールに関しては三本を合わせて撚るとちょうどいいようだ。


チュナールを解いた跡

チュナールも、普通のスティッチ同様、細かい作業だ。糸を解いたあとの布には、0.5mmほどの感覚の穴がたくさん空いていた。
チュナールの配色も変えて、いよいよ全体が完成した。

いくつもの細かい失敗はあるものの、試作した価値が十分にあった。これは、自分のキンドルを入れて使いたいと思う。販売をしようと決めたら、上手な刺し手に頼んで、よりすばらしいものを作りたい。

チュナール

Kindleという電子書籍リーダーを入れる袋を作っている。これはハリルのアイディアがきっかけになった。昔のトルクメンは、チャイ・ガープというお茶を入れる小さな袋を使っていた。布製の単純な袋だが、そこにも刺繍を施していたようだ。その袋の形をまねて iPhoneケースを作ろうとしていたら、ハリルがそばに置いてあったKindleを指して、そのケースを作ればいいと言ったのだった。

まずは布をキルティングして、下絵を描く。これはドゥルリ・サーリチヤンという名前の模様。これと「ウムラ」という模様を組み合わせて大きな模様を刺してあるバラックをいくつか見た。


義母のバラックから模写した模様。その構造を理解するのには案外時間がかかる

さて、この模様の主な部分は線が太く、チェーンステッチを二行刺しただけでは隙間ができてしまう。そこで、義母から別のスティッチを習った。

似ているのだが、違うスティッチだ。最初、針子の一人に教えてもらったのだが、そのときはちっとも理解できなかった。翌日、あらためて義母に教わったが、義母は教えてくれるというよりも、自分で刺して「見ていろ」という感じなので、なお一層分からなかった。仕方がないので、そばに座って針の動きをまねていたら、なぜかできたのだった。そして残っていた刺繍をすべて刺し終えた。

色は自分で選んで、周りには好評だったのだが、最初にイメージしていた配色とはかけ離れてしまった。差し色として置いた黄色やピンクが、トルクメンというよりはアフリカ的な色合いにしてしまったようだ。
しかし作業はこれで終わりではなく、もう一つ新しい技術を覚えなければならない。袋を縫って、裏地をつけたら開いている部分を刺繍でかがる。これを「チュナール」という。

チュナールも義母に教わった。またもや針と糸を手に取って、Kindleケースに直接刺し始める義母。色も「これでOK」といった感じで適当に選んでいた。ますますアフリカチックになっている。しかし今回もチュナールの技術がまったく理解できなかった。なぜって、義母のスティッチは荒れに荒れてあちこちしているので、基準線がどこなのか分からない。おまけに、玉結びした玉が完全に出てしまっている。

義母のあとをまねして刺してみたが、裏側の線の傾きが逆になっているし、この技術はまだできそうになかった。しかし自宅に戻って、義母の針の動きを思い出しながら別の布に刺してみたら、今度もそれらしくできたのだった。


裏側

天才か? 義母のよりきれいに刺せている。Kindleケース本体のチュナールは解いて、新しく刺してみようと思う。できあがりまで、あと少しだ。

バッグチャーム

「バッグチャーム」をご存じだろうか。去年、谷中でトルクメン刺繍の展示販売をしたときに、そのギャラリーのスタッフに教えてもらって知った言葉だ。バッグの持ち手などにつける飾りのことを言うようだ。

これは義母が刺繍をして周りの処理もしたもの。両面のものと片面のものがある。シンプルなバッグにつければ、ちょっとしたチャームになるということだ。

また同じものを作ろうと思い、二枚一組の下絵を三つ、一人の刺し手に渡してあった。ところが戻ってきたのは一組だけ、残りは「(値段が)安すぎるから」と言って刺していなかった。実際、その一つ(上の写真)は非常によくできていたので、伝えてあった数字より高く買い取った。この刺し手は、わたしが知る中では一番上手な職人なのだ。おそらく彼女は別の仕事の依頼が来たので、これがめんどくさくなってやめたのだろう。そういうわけで、残る下絵は自分で刺してみることにした。

まずは枠を緑の糸で囲う。これはどの刺繍も必須の作業なのだ。それから、この図案の場合、線の部分を黒で刺していく。

それから中身に色を入れていく。トルクメン刺繍のセオリーどおり、赤と白の対比にしたいので、表面は赤、裏面は白を基調とすることにした。赤が刺せたら、次はそれを際立たせるための色を刺す。つまり、赤の場合は青、白の場合は緑である(これはもう決まったルールなのだ)。


ザクロの模様

枠線とのあいだに隙間があるので、白と黒の点線を刺した。少し隙間が残ってしまったが、たぶん隙間はない方がヨムート族的な刺繍に近いと思う。

わたしの刺繍の腕は確実に上がっている。このくらいのスティッチであれば、もう売り物にできるレベルだ。ただし、こんな小さな面積を刺しただけで首と肩がガチガチになってしまっているので、もっと楽な姿勢で刺す修行をする必要がありそうだ。

 

鳥の翼

地元の女性たちとの作品づくりをやめたら、ものすごく気が楽になったし、やりたいことだけできるので、刺繍に対する情熱が以前より湧いてきた。最近は、二週間かけて Kindleケースに刺繍をした。ひとつ新しいスティッチも覚えたし、あとは縁の刺繍を習えば、ケース全体を仕上げることができる。

これは、日本から戻った頃に刺し始めたアンナック。最近になってようやく刺し終えた。アンナックとは、トルクメンの既婚女性が外出するときに頭の上に乗せる輪っかのことだ。トルクメンにはいくつかの部族があって、アンナックを用いるのはヨムート族に限られている。ちなみに、クミシュテペにはヨムート族が多く住んでいて、ハリルの一族もそうだ。
「刀」を逆さにしたような形を四つの色で刺したのだが、外側の刺し色を何にすべきか分からず、義母に聞いてこのようになった。刺し終えたとき、白色が妙に浮いてしまって、バランスが悪いので刺し直そうかと思っていたのだが、しばらくして遠目に見てみたら、赤と青、白と緑の二つ一組の模様によって赤・白・赤・白と対比ができていることに気づき、うれしくなった。ヨムート族の模様の基本的なルールの一つに、赤・白の連続がきれいに見えることがある。また赤には青、白には緑の刺し色を使うことも決まっている。
ところでこの模様は、「刀」ではなくて「鳥の翼」という名前がある。鳥の翼はヨムート族によく見られる模様で、いろいろな形があるのだが、どれも「どうしてこれが鳥の翼なんだろう?」というものばかりだった。どう見ても、鳥の足にしか見えない形もあったりして、形をよく理解しないまま刺したので、わたしのは「刀の逆さ」になってしまった。あるいは、クマかなんかが歩いている感じがする。
ところが先日、市場で古いバラックを買った際、この件が腑に落ちたのだった。


鳥の翼

まさに、鳥が羽ばたいているように見える。線のほんの少しの傾きで、こんなにも違う内容になるなんて! と感激した。おそらくこの形がオリジナルで、いろんな人によってデフォルメされていったのだろう。義母のものなんかはもう鳥の足になってしまっている。


義母のフリーハンド。翼がひっくり返っている


わたしが見つけて描いた別の形。これも鳥の翼

しかしどの形を見ても、ヨムートの女性は「これは鳥の翼」と答えるだろう。そういうものなのだ。

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プロフィール

イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

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