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砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   

敷布団

去年の夏にしこしこと洗って溜めていた羊毛は、袋に入れて、冬のあいだ屋根裏に保管していた。そして気がついたら暑い季節になっていた。ひょっとしたらもう虫が湧いたんじゃないかというくらいの時期だったので、急いで工場に持っていってくれるようハリルに頼んでいたのだが、それからまたしばらくのあいだ部屋に放置してあった。見かねたわたしは「もう全部焼いてやる!」と、脅しというか、自暴自棄に陥った。あんなに面倒な作業をていねいにやって、その結果が虫食いで羊毛が廃棄となったらあまりにバカバカしいと思い、腹が立ったのだ(そういうことは、ここでは高い確率でありうる)。しかもその理由が、いつもの「なんだか忙しくて手が回らなかった」だとしたら。
そもそも、敷布団問題とはこういうことだ。クミシュテペでは、布団は家で手作りするものなので、買って済ませることができない(売っていない)。大きな都市に行けば工業生産された敷布団が売っているかもしれないが、それはきっと、使いものにならないような質のものだろう。見なくても分かる。これまではナーセルの家からもらったいくつもの敷布団を使ってきたのだが、どれも丈が短すぎて、枕を布団の外に置かないと足が出てしまう。わたしは寝相が悪いので、寝ているあいだに枕と敷布団のあいだに隙間ができて、とても寝心地が悪いのだった。掛け布団は日本から羽根布団を送ってもらい、扱いやすくなったものの、敷布団を何組も送るのは費用がかさむので躊躇していた。それでしぶしぶ、うちにある羊毛を使って敷布団を作ってみようという決断を去年したのだったが、あんなに手間と時間をかけて準備した羊毛が、こんな理由で無駄になりそうな状況なので、もう敷布団も日本から送ってもらおうと考え始めていた。洗って乾かした羊毛は、工場に持っていって梳いて布団用に加工してもらい、それを家で布団に仕立てるとのことだったが、残る行程を考えただけでうんざりしてきたのだ。
わたしは自分の手でものを縫うのは好きだが、汚れた羊毛を手洗いするところから始める敷布団づくりは最初からやる気が出なかった。おそらく、やり方を義母たちに教わらなくてはならないとか、布地など材料の買物も一人ではままならないことがその理由だろう。わたしには、のんびりした人たちとの付き合いに関して、気が短いところがある。
ともあれ、わたしが羊毛に火をつける直前に、ハリルはそれらを持ち出してくれた。わたしは「もう敷布団は作らない」と宣言していたので、彼は誰か地元の女性に作ってもらって、代金を支払うと言っていた。そしてなんとたった数日後、敷布団二枚が納品された。サイズは指定したとおり、1×2メートルの大きさだった。敷布団を包む布地はわたしたちが市場で買って届けたのだが、それから1~2日後には縫いあげられたのだ。一枚9kgの布団だそうなので、わたしが洗った分はおそらく二枚分には足りなかったんじゃないだろうか。
布団を縫ってくれたのは、ナーセルの奥さんだった。義母の指導で、彼女が作ってくれたとのことだ。毎度のことながら、本当にありがたい。しかも、羊毛があるのでさらに二枚作ってくれるとのこと。数キロの羊毛を洗って乾かすだけで大騒ぎしている自分が恥ずかしくなってきた。それにしても、彼女はあの狭い庭でたくさんのこどもがいる中で、いったいどうやって作業しているのだろう。恐ろしいので見たくはないけれど。
ハリルとカバー用の生地を買いに行き、二枚分のカバーを縫った。普通は綿の入った生地で布団カバーを作るそうなのだが、その模様がどれも気に入らず、結局はテーブルクロスによく使われている化繊の布で布団カバーを作ることにした。うちは敷布団は必ずシーツで覆って使うので問題ないと思ったのだが、どうだろう。しばらく使って様子を見ようと思っている。


寝心地はとってもいい。なにより、起きたときのふんわりと包まれる感じが心地いい

これまた一件落着。

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No Title

  • by ボーダ
  • URL
  • 2015/06/23(Tue)06:53
  • Edit
「全部焼いてやる!」と「私が羊毛に火をつける直前に、ハリルはーー」の二カ所で笑わせてもらいました! 笑っちゃってすみません。でも、よい睡眠は重要問題だし、羊毛を洗うあの作業だって、無駄になるなんて耐えられませんよね。私も今回このアパートで一晩寝袋で寝たあと、翌日はベッドを買いに走り回りましたから(爆)ふんわりと気持ちのいい敷き布団ができてよかったですね。この18キロの中の50gぐらいは私が洗った羊毛も入っていますかね(笑)? それにしても、トルクメンたちは背が低いわけじゃないのに、どうしてそういう短い敷き布団が主流なんでしょうね? ナーセルの奥さんはすごいです。私もやっとまた彼女が織ってくれたバッグとゆっくり再開ができて、あの小さな中庭を思い出しています。

ボーダさん

  • by 砂漠人
  • 2015/06/23 17:52
笑ってもらえて、ほっとしましたよ。だいぶ自分を擁護するように書いたものの、
読んで引いちゃう人がいないだろうかと考えました。でも実話なので(笑)。
ボーダさんが洗ってくださった分、数キロでしょう!
もう2枚縫ってもらうので、次回は足の出ないフカフカの布団で寝られますよ。
あ、でもわたしが日本に行っているあいだにナーセル家族が使うのかあ…(爆)
布団はサイズをイラスト入りで書いて渡したのに、作る前に義母から電話があって、
「これだと長~い布団になっちゃうよ」(義母)
「長~くないとだめなんだよ」(わたし)
「枕を布団の上に置くのかい?」(義母)
「そうそう! 長くないとダメなの」(わたし)
布団の材料を節約するために枕は別に置くようになったのかな、と思いました。
深層はまだ闇の中ですが。
120cmとか145cmの布団は、おそらくこども用なんでしょうね。
だったらどうしてうちにくれたんでしょう? これも闇の中です。

No Title

  • by ユーコ
  • 2015/06/23(Tue)14:09
  • Edit
ふっかふかの羊毛の敷き布団、気持ち良さそうですねー
側生地のブルーが清々しくてまた良いです。

1枚あたり9キログラムも羊毛を使っているんですか!?
ふわふわの羊毛で9キロってすごいですね。
羊さん、何頭分なのか想像もつきません
頑張って洗ったのが報われて本当に良かった。

上等な敷き布団で極上の睡眠が取れますね。
羊を数えることもなく眠りに落ちちゃいますね。

ユーコさん

  • by 砂漠人
  • 2015/06/23 17:52
この生地、妙に清々しい色ですよね。
シーツをかけるので、寝るときは見えませんが(笑)。
そういえば、羊何頭分でしょう?
売ってしまった群れですが、こんなところで恩恵を受けられてうれしいです。
羊を数えるなんて… すっかり忘れていましたよ!
肉体労働をして体が疲れていると、どんな条件でもあんがい爆睡できるものなんです。
でも気分が違うので、この布団は本当にうれしいです。
羊毛、焼き捨てないでよかった~ わははは

No Title

  • by 昇
  • URL
  • 2015/06/23(Tue)23:34
  • Edit
まあまあ、短気出さずに(^^;

布団縫いは場所取りますよ。昔まだ祖母が存命中には布団の縫い直しや新しい布団作りやっていましたけど、六畳の和室一つ使いましたから。ちなみに羊毛では無く綿だったと思います、実家の敷き布団。

そういえば、家族曰くインドネシアの義妹さんの友人宅に泊まった時もベッドの上の敷き布団は短くて枕は布団の外に置くようになっていたとか。そちらでもそうなんでしょうかね。

昇さん

  • by 砂漠人
  • 2015/06/24 18:29
布が2×2メートルなので、それほど大きな場所はいらないと思うんですけどね。
清潔な場所でやってるのかどうか、まあそんなとこが気になりました(笑)。
インドネシアでは、ベッドの上でも枕は別だったんですか。
布団の節約以外になにか理由があるんでしょうかね。
慣れれば大したことないのかもしれませんが、ご家族さんは
背が高いから不便だったでしょう。

No Title

  • by ボーダ
  • URL
  • 2015/06/24(Wed)07:13
  • Edit
この布団のカバーに使った布は、kumikoさんが市場でもよく見ていた、ランチョンマットにも使ってらしたあの生地でしょうか? なかなかきれいな青ですねー  それにしても、自分のうちの羊の毛を刈って、洗って、乾かして、布団にするというのは、考えれば考えるほどすばらしいです。

ボーダさん

  • by 砂漠人
  • 2015/06/24 18:29
そうです。あの布です。赤も買いました。例によって、わたしは柄にうるさいので
幾何学模様なら耐えられるのですが、花とかフリーハンドで描かれた模様は
選べるものがありませんでした(笑)。
はい、なにより原料から自給するというのはすばらしいことです。
でも敷布団づくりでは挫折を味わいましたね。
Little House seriesのような生活は、本当に大変です。

無題

  • by 大福
  • 2015/06/24(Wed)12:18
  • Edit
ほかの人に頼むって、よりによって兄弟の別のお嫁さんだなんて(^_^;)
砂漠にお嫁に行くと、なんでも自前で済ませなくちゃいけなくて、ほんとに大変そうです。その中のいくつかは、どうしても苦手〜ってお嫁さんはいないのでしょうか?

青いお布団とっても涼しそう!私も寝ている間に枕から頭が落っこちて、朝首が痛いってことが実によくあります w 布団の長さは足りています (^_^;)

大福さん

  • by 砂漠人
  • 2015/06/24 18:45
ナーセルの奥さんに頼むだろうことは、なんとなく分かっていましたが、
考えないようにしていました(笑)。
苦手な人はいると思いますが、何事も日本のように高いクオリティーは
求められていないので、できない人はいないと思います。
曲がって縫っても糸がゆるくても、誰も文句言いませんから。
それに、一人でする作業はほとんどなくて、義母とか娘とか、
みんなで一緒に作業するので責任みたいなものはそれほど感じないと思います。
…たぶん。
それから家によってはなんでも買って済ませるという人も、
最近ではいるんじゃないかなあ。
え、大福さん、枕をはじいてしまうってこと? それもすごいな。

無題

  • by 大福
  • 2015/06/25(Thu)12:10
  • Edit
「曲がって縫ってもゆるくても誰も文句を言わない」
あーいいなあそういうの!!!うらやましいです。それに女性たちでの共同作業というところが、なんかすっごくいいなあ〜。

大福さん

  • by 砂漠人
  • 2015/06/26 16:48
共同作業はわたしもいいなと思うんですが、
糸がゆるいのは…(笑)
日本人はきちきちしすぎで自らの首を絞めているなあと思うこと、
けっこうありますね。ここではそれに気づかされました。

No Title

  • by May
  • URL
  • 2015/06/26(Fri)16:31
  • Edit
kumikoさんは、私よりずっと気が長いですよ。
よく耐えたと思います!私だったらとっくに燃やしてますね(爆)
うちでも種類とレベルは違えど似たような苦労があるのですが、年とともに忍耐力が無くなってきたのか、キレやすいです。”ちょっと待てよ、なんで還暦近くなってこんな苦労しないといけないの?”と思うと(いや、思うより速く)キレてます。

とにかく、いい感じに出来上がった布団の写真を見るまで、一気に読みました。
私は多分、こういうふうに文章にする気力さえ無いです〜

Mayさん

  • by 砂漠人
  • 2015/06/26 17:10
わはははは! Mayさんも火をつけますか。
わたしは文章になると妙に冷静に書けるんです。
実際はただのヒステリーです。怖いです。
年を取ると忍耐力がなくなるのは本当だと思います。
これまでもキレやすかったのに、今後はもっとそうなるとは
ほんとに恐ろしいことです。どうしよう。

プロフィール

イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

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