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砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   

危機からの脱出

今日は、手に汗握るスリル満点の事態に陥ってしまった。時は申七つ(午後3時半ごろ)、場所は厠(トイレ)である。もちろん、トルクメンサハラの自宅の庭にあるトイレで。


左がトイレ、右が手洗い

ハリルが仕事で遠くに出かけていたので、わたしは裁縫の計画を立てながら一人で過ごしていた。今日も風が強く、外は小さな砂嵐が舞っている。なるべくなら家でじっとしていたいのだが、トイレだけは仕方がない。外に出ることにした。子猫たちはみな階段で眠りこけている。その平和な寝顔を確認しながらゆっくりとトイレまで歩き、個室に入っていつもどおり用を足す。そして外に出ようとドアの把手を回した瞬間、「しまった!」と思った。外の把手がくるりと回って、ドアが完全にロックされてしまっていた。

イランの浴室やトイレには、このタイプのドアがよく使われている。内側からも外側からも、把手を回してフックに引っかけて閉めるようになっている。難点は、内側にいるときに外側からフックに引っかけられると完全にロックされて出られなくなることだ。それが今、自分の身に起こっている状況だった。
ハリルは車で一時間以上かかる場所に行っていて、あと数時間は戻ってこないだろう。もっとも、家にいたとしてもわたしのSOSが聞こえない可能性はかなり高い。じつは数日前にも同じことが起こり、そのとき彼は家の敷地の外にいたのだが、近所のこどもたちとふざけていて、わたしがドアをバンバン叩く音も「ハリル!」「ハリル!」と叫ぶ声も完全に聞き逃していた。どうやって出たかというと、となりの悪ガキ(失礼!)がキチガイじみたドアバンバンを聞きつけて、わたしを救出しに来てくれたのだ。トイレに入っているあいだにドアの外側の把手がなぜか自然にくるっと回ってしまい、ロックされたのだった。それ以降、わたしはトイレに入るときは気をつけてドアを閉めないようにしたり、把手の向きを変えたりしていたのだが、そのときはうっかり閉めてしまったようだ(だってトイレのドアは習慣的に閉めるものだから)。いや、把手の向きを調整したような気もするが、いずれにしてもくるっと回ってロック。が起きてしまった。
トイレには35cm四方の窓用の穴があって、蚊の対策のために押すだけで外れる網戸(わたしの自作品)を入れている。前に閉じ込められたときも、そこからの脱出をちらっと思ったのだが、幸いにも悪ガキが助けてくれたのでその必要はなかった。しかし今回は、彼も昼寝しているようだ。今は断食中なので、隣近所はしーんと静まりかえっている。誰もが日没後のラマダン明けを待ちながら、力なく昼寝している時間なのだ。ドアをバンバン鳴らしてみたが、なんの反応もなかった。しかし大きな声で助けを呼ぶ度胸が、わたしにはない。唯一、寝ていたはずの子猫がわたしの大事を知り駆けつけたのか、ドアのすぐそばでミャーミャーないていた。ロチだった。でもロチはドアを開けられない。仕方がないのでハリルが帰るまで数時間、トイレで過ごすか… と諦めかけてハッとした。台所には、火をかけている。何時間も待っているうちに、鍋が黒焦げになるだけでなく、本物の火事を出してしまうかもしれないことに気がついたのだった。わたしはこれまでにも何度か、台所の火をかけたまま忘れてしまい、やかんや鍋を黒焦げにしたことがある。いつか家を焼いてしまうな、というほど火の始末が悪いのだった。それは避けなければならないので、やはり脱出を試みるよりほかはない。

窓は床から2メートルのところについている。幅は35cmなので問題ないだろう。問題は、どうやってその穴に自分の体を入れるか、だ。足場になるようなものは、壁に留められた水道管とトイレットペーパーホルダーのみ。それぞれ床から40cm、80cmのところにある。

最初は水道管、そしてペーパーホルダーに足をかけて、片手は窓に、もう片手は壁のてっぺんに添えて、よじ登った。途中、つるつるの壁にも足をかけ、頭から先に入れて、上半身を出して窓からぶら下がった。そのまま真下にあるコンクリートの壁に手をつこうと思ったが、それではバック転してカボチャ畑に落ちてしまうので進路変更し、両手をお隣さんとの間の壁について、残る下半身を引きずり下ろした。スカーフも着ている服もすべてがずり落ちていたが、いくらムスリムでもそんなことにかまっている場合ではない。さっと埃を払い、トイレに脱ぎ捨ててきたサンダルを履き足を洗い、家に戻った。鍋の中身は沸騰していたが、問題なかった。


脱出口とカボチャ畑

このところ、物事がまったく思いどおりに進まないことからくるうっぷんが溜まっていて、それを晴らす対象となるハリルに「トイレのドアロックが起これ」と密かに呪っていたのだが、なんとそれが自分に起こってしまった。これは、なにか偉大なるものからの「自戒しろ」というメッセージなのか。いずれにしても、自分の腕の筋肉には感謝している。以前のわたしだったら、窓からの脱出は無理だった。迷わずドアのガラス窓を割っていただろう(うっぷん晴らしにちょっと割りたかったけどね)。

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No Title

  • by ボーダ
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  • 2015/06/30(Tue)00:52
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へぇー 大変でしたね。写真と文章を見比べて想像しながら読み進めたので、読むのにちょっと時間がかかりました。ロッククライミングさながらです。でも、火事にならなくて良かったですねー 

ボーダさん

  • by 砂漠人
  • 2015/06/30 15:09
今のわたしならボルダリング(?)できるかもしれません。
この火の不始末はどうしたら直るんでしょうか。
ほかにも色々ありますが、要するに「不注意」なんですよね…。

No Title

  • by May
  • URL
  • 2015/06/30(Tue)07:05
  • Edit
まずは、、私も鍋やフライパンをかけっぱなしにして忘れることがあるので、火事にならなかったことは幸いでした!
脱出案、トイレの中に踏み台を置いておくのはどうですか?(簡単に窓に登れるように)
あとは、そのノブの改善ですかね〜
自分に考え合わせると、またやってしまいそうなので。
キャンベラの賃貸が、ドアを閉めてしまうと外から開けられないようになっている式のノブで、いつも注意していたんですが、ある夜(しかも夫も一緒に)ゴミ捨てに出る時に、やってしまったんです。
隣の大家さんは長期でインドネシアに帰省中・・・
入れる所を探し回って、一ヶ所トイレの高い窓に夫が私を押し上げて、そこから体をねじ込んで入りました。

うっぷんばらし、よ〜く分かります。
私も安い皿を買っておいて、思いっきり投げつけて割りたくなることがありますよ(爆)

Mayさん

  • by 砂漠人
  • 2015/06/30 15:11
トイレの壁に踏んでも壊れない棚をつけようかと思いましたが、
それよりドアをなんとかする方がいいでしょうね。
ハリルの太さでは、窓から出られませんしね(笑)。
Mayさんとこのドアはその後、変えたんですか? そのまま使ったんですか?
「気をつける」という行為でなんとかしようというのはまちがいですよね。
絶対に気を抜くときがきますもんね。

お皿はね~
片づける人が結局自分だから、割れないですね~(笑)

あっぱれ

  • by 松田がんこ
  • 2015/07/01(Wed)10:39
  • Edit
スパイ大作戦みたいなレポートをありがとう。

気持ち、わかるなあ。

7月はもうちょい沈静化するのでは、と願いながら願掛け。。。

がんこ

  • by 砂漠人
  • 2015/07/01 14:39
コメントありがとう!
脱出後もドキドキしてたからね。すぐ書いた。
がんこには変化が訪れてるね?

無題

  • by 昇
  • 2015/07/01(Wed)20:22
  • Edit
あらら、大変でしたね。
昔、某宗教団体の勧誘でマンションに缶詰にされた時、トイレに行くふりしてトイレの窓から逃げましたっけ。マンションの一一階だったのでそのまま逃げ帰りました(-。-;

ドアの改良要りそうですね。

最近ものすごく馬が欲し〜

昇さん

  • by 砂漠人
  • 2015/07/01 21:55
それは恐ろしいご経験でしたね。ドラマですね。
ドアの把手をいじってみたんですが、どうにもなりませんでした。
普通は回りが悪く、手で止めた場所で止まるはずなんですが、
くるっと回るくらいに「なにか」が緩んでしまったようです。
わたしは外の把手を回して壁に当たるようにしておいてからトイレに入り、
ドアは閉めないで用を足すことにしました。
よく考えたら、ハリルは以前からそうしていたんです。
どうしてドアを閉めないのか不思議に思っていたんですが、
ひょっとしたら危機管理能力が高いのかも?(笑)

馬!(笑)
うちもほしかったです…。お金持ちになっていたら。

無題

  • by 昇
  • 2015/07/01(Wed)21:45
  • Edit
あれ?変な文章入っちゃいました(汗)
最後の文章は意味はありません。すみません(~_~;)

No Title

  • by ボーダ
  • URL
  • 2015/07/01(Wed)22:10
  • Edit
ドアがどうにもならないとすると、そのドアに定規のような薄い物が入る隙間はないですか? 閉まっちゃった場合それを差し込んで開けられないかな。開けられるとしたら、トイレに定規を置いておくとか。一案です。

ボーダさん

  • by 砂漠人
  • 2015/07/02 02:35
ドアは、外側の黒いドア枠の内側に入ったかたちで収まっているので
(外側には絶対に開かない)、外側の把手に内側から触るためには、
まずドアを開かないと無理なんです。
90度に自在に曲がる定規じゃないとできません(笑)。
外側の把手の端に紐をつけて、壁の上から引っ張るとか?
実際、家の門はみんなそうやって開けていますが、このトイレでは
難しいですね。今、蚊対策で天井にも網戸を張っていますし。
外側の把手を取り除いてしまおうとも思いましたが、
使わないときに隙間があいていると蚊が入って大変です。
犬や猫も入ってしまうのでドアはいつも閉めておかないとなりません。
アホなドアめが! と文句を言うしかないのかな、結局。
ジェリルが来たら相談してみます。ほかの人は信用できない(笑)。

No Title

  • by 昇
  • URL
  • 2015/07/02(Thu)03:14
  • Edit
トイレのドアですが、ドアの握手を開きにしたまま固定してしまうのはどうでしょう。
またはドアノブを取ってしまって他の取っ手を付けるとか。
家の実家で実際にやっていたのですが、元々のドアノブが壊れてしまったので外して角材を打ち付けていました。で外と中に引っ掛ける小さな閂を付けて。
ドアノブの穴は打ち付けた角材で塞ぐ形にしていました。中のポッチも取れてしまっていたので風で開いてしまう。で、トイレから出たら外側の閂をかけておく。これで何年か使って新しいドアと交換しましたっけ(笑)

犬と同じくらい馬が好きなんです。ガチで馬欲しいです。ポニーとかでなくてアラブ種とかホルシュタインとかロシアン・ドンとか。一番欲しいのはアハルテケ。子供の頃佐目毛のアハルテケの写真を見て以来取り憑かれています(笑)
まあ、アハルテケなんて永遠の憧れでしょうけど。

昇さん

  • by 砂漠人
  • 2015/07/02 20:26
ドアの把手を「開く」の状態に固定して、ドアを閉めるときは
紐かなんかで引っかける、ということですね?
そういう面倒なことになると、わたし以外の人はきちんと閉めない気がします…。
いつもこういう低い次元で頭を痛めているので、ストレス満載です。
もっとも、わたしが日本出身じゃなかったら、こうはならないんですけどね。

犬ほどに馬がお好きだったんですか!
アハルテケって、調べてみたらトルクメニスタンの品種じゃないですか!
あのぶら下がったりして乗る馬ですかね(笑)。
クミシュテペにはいないと思いますが、今度この辺の馬の写真を
撮ってみますね。そういえば、ハリルのいとこが馬飼っています。

うわぁ~、似てる・・・!

  • by あん
  • 2015/07/02(Thu)04:10
  • Edit
昨日の砂糖堀りの話しといい…あたしとKumikoさんってやっぱちょっと似てるのかしらん?私の場合逆バージョンなんですが、先日1時頃ちょいとゴミを出そうとドアを開けて出た瞬間、突風でドアが閉まって自動的にロックアウトされちゃったんですよ。お鍋をに火かけてるしエプロン・突っ掛け姿だし「どうしよォ~!」ってあせりましたよ。即家のあらゆる窓を見まわしましたけどどこも閉まってる。唯一半開きなのは2階の踊り場の窓。即私の頭の中には、家の前の木によじ登ってその窓から頭を入れて入り込もうとしてる自分の姿がビジュアルに浮かんできましたよ。しかし通りに面してるから丸見えなんですわ、もし「オバサンが危ない!」って誰かが警察でも呼んだら大恥ですからね…。ダンナが息子連れて帰って来る6時まで街に行って遊んでようか…とも思ったんですけど、ツッカケだしお財布ないし、第一火事になったらどうすんだオマエ!ですよ。それで物凄く考えて、隣のごみ箱を動かして塀まで持って来て、塀をよじ登って裏庭から侵入しました。塀から飛び降りる時ね、もし着地に失敗して顔から行ったら、もうあたしの人生はオシマイだってマジで思いましたよ。以来ゴミを出す時は必ずドアに靴をかませてから出てますわ。

あんさん

  • by 砂漠人
  • 2015/07/02 20:26
え、イギリスでそんなことが?
どうして住宅に自動的にロックされるような扉を使っているんでしょうね。
あんさん、なかなかやりますね。
そのわりには壁から正面切って飛び降りちゃったみたいですが…。
後ろ向きで壁に手をかけて… みたいなのは考えなかったんですか?(笑)
危なかったですね~。顔面打っても不思議はないですから。
もちろん、ツッカケは脱ぎましたよね?
なんだかまた少し安心できました。ありがとうございます。
第三世界だけじゃないんだ~(笑)

No Title

  • by paprica
  • URL
  • 2015/07/06(Mon)23:03
  • Edit
うひゃぁ。スリリング!こういう小さなスペースに閉じ込められるの。。。こわい〜。ドアに手をかけて開かなかった時の焦り。。。あの一瞬にシャカシャカと色んな思いが巡るんですよね。どうやって脱出するべか。
脱出窓があってよかった〜。
非常時に備えて、飲水と食料を常備しておいたほうがいい?? おトイレはあるから問題なしですね(笑)

papricaさん

  • by 砂漠人
  • 2015/07/08 02:01
ほんと、トイレって、水とトイレがあるから長時間過ごしても問題ないんですよね。
家の中の水が出なくなったときに、トイレでシャワー浴びようと
前々から考えていました。幸い、まだその機会はないですけど。
じつはその後、ハリルにドアロックが起きて、ドアが壊れましたよ(笑)。
ありえない発想で、彼はドアの下半分のアルミを破ったんですよ。
しかも内側の把手も折れていました。
こうやって、家は次々と壊れていくんです。もう知らない!

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イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

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