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砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   

義母の刺繍のおわり

刺繍の代金を支払いに、義母のところへ行ってきた。分かっていたことだが、やはり義母は刺繍をしておらず、朝のお茶が終わったあとで横になっていた。一日のうちで横になる時間が、少しずつ増えていくのかもしれない。
バラック12本、ハンドバッグ2つ分の刺繍が未払いだったので、合計して大きな金額になっていた。値段の内訳を説明して、それでいいかと確認したら、「わたしはあなた、あなたはわたしだから、お金は払っても払わなくてもいいんだよ」というようなことを言ってくれた。「わたしは仕事をしたらお金をもらうから、お母さんももらわないと」と言うと、OK と言って受け取っていたが。
ハンドバッグの持ち手の材料を買うために、預けてあったバッグ本体を出してもらおうと思ったら、見つけることができなかった。刺繍関連のものを詰め込んだたくさんの風呂敷包みが二階の倉庫にあるようなのだが、風呂敷をまとめるのはお母さん、置きにいってくれるのはお嫁さん(ナーセルの奥さん)なので、どこになにがあるか分からなくなってしまうようだ。結局見つからなかったのだが、その整理の過程で出てくる端切れや撚ってある糸をまとめてわたしにくれた。しかし端切れといっても、2~3センチ幅の紐状の布がちりぢりになったものがほとんどだ。義母も、昭和時代を生きた多くの日本人母と同じく、物を捨てることができないのだろう。わたしにはごみにしか見えない端切れだが、「刺繍するときにあて布として使え」と言って持たせてくれた。



それから、刺しかけの刺繍もひとつくれた。チュナール(刺繍の技術のひとつ)はできるだろ? と言いながら。残った10cmくらいを仕上げて使えということだ。


電話の下に置く敷物を作っていたようだが、家にあってもこどもが汚すから持っていけ、とわたしに。これはスティッチがガタガタなので、つい最近の作品だと思う。義母はその人生において80年近く刺繍をしてきたはずで、ほんの数年前まで、スティッチはきめ細かく整っていた。しかしこの数年はだんだんと目が悪くなり、ついに手元が見えなくなったのだ。この敷物は、普通のヨムートの刺繍には見られないシンプルで大きめのスティッチと明るい色を使って、つまり見えない目でも可能な限り刺した、義母の工夫とその造形が見られる。残りのチュナールを完成させて、わたしの部屋に飾ろうと思う。

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  • by Tamihime
  • 2017/11/14(Tue)21:57
  • Edit
毎日やっていたことができなくなる。そんな日が必ず来るのですね。
お義母さんのやりかけの刺繍、感慨深い物がありますね。
80歳すぎまで細かい刺繍をするなんてすごいことだと思います。

Tamihimeさん

  • by 砂漠人
  • 2017/11/17 02:57
八十歳代で刺繍なんて、ものすごいことだとわたしもずっと思っていました。目が見えなくなって、本当にやめてしまうとはあまりに残念です。彼女は刺繍だけじゃなくて、家畜や家禽を飼ってこどもを十人も育てて、同じ人間とは思えない力を持っていると思います。七十数年も続けた刺繍ができなくなっても、潔く用具を片づけているのに驚きました。

No Title

  • by ボーダ
  • URL
  • 2017/11/17(Fri)07:14
  • Edit
この最後の作品、いわゆる質とは関係なく、お母さんの人生が現れているようで実に感慨深いです。目が見えないからスティッチが大きくて、色が明るくなる。それでも刺していたんですね。それがついに刺せなくなってしまったんですね。そして、刺繍関係のものをきっぱり整理する。潔いよいなぁー。ハリルのお母さん、さすがです。言うこと、成すこと、ただ者ではありません。

ボーダさん

  • by 砂漠人
  • 2017/11/18 01:48
はい、白い布に刺すというのも、普通のヨムートの刺繍ではあり得ないのです。常識は置いておいて、それでも目が見えなくなった自分が刺せるように工夫する。彼女でないとできないと思います。
今回は、新しい刺し手まで見つけておいてくれました。泣けてきます。

No Title

  • by ボーダ
  • URL
  • 2017/11/17(Fri)07:17
  • Edit
残りのチュナールを完成させないまま、額に入れて飾るというのはどうでしょうね。一つの案です。

ボーダさん

  • by 砂漠人
  • 2017/11/18 01:48
今晩あたりチュナールしようかと思っていたところに、このコメント! えええ? それは思いつきませんでした。迷うなあ! よーく考えます。

あれ?コメントが消えちゃいました

  • by フロリダ娘
  • URL
  • 2017/11/25(Sat)05:54
  • Edit
数日前にコメントしてたと思ったのですが投稿されてませんでした

お義母さんが出来なくなったと自分で認識して「おわり」をしっかりケジメづける姿、感心してしまうけれど切ないです。
身近にいるクミコさんが、その瞬間に立ち合って最後の未完成作品をもらう... なんとも象徴的...
夏にイランへ帰郷したのは甥の結婚式に出席するためでしたが、同時に老いてきた義父の様子が心配だったからでもありました。色々あったのですがプライベートな事をどこまで書くか、またどう説明しても伝えきれない気がしてなかなか書けずにいます。
それをクミコさんが見事に、端的に表現しているようでこの投稿は特に胸に迫るものがあります。

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プロフィール

イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

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