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砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   

フレドリック・バックマン『幸せなひとりぼっち』

スウェーデンの小説を日本語訳で読んだ。この話は2012年に出版され、スウェーデンでベストセラーになって、38ヶ国語に翻訳され、映画化もされているそうだ。わたしは映画を観た人のブログ記事から興味を持って、文庫本を買った。


この本には、妻に先立たれた59歳の男が自殺しようとしている日々が描かれている。男はもちろん簡単には自殺に成功しないのだが、その顛末が綴られる中で少しずつ彼の歩んできた人生が明らかにされていき、同時に妻が亡くなってからはとくに重要でなくなった隣人や他人とのつながりが、次々と築かれていく。
本の前半では、次第に明らかになっていく彼の人生に驚き、同情し、涙が出た。不愛想で頑固な男の言動に、ときにはいらいらしながら読み進めるのだが、しまいには彼という人間が愛おしく感じられ、彼の生き方に尊敬の念を抱いてしまう。
数年前にスウェーデンに少しだけ暮らしたわたしには、話の展開はともかく、小説の細部はリアルに感じられた。「白シャツの男」として描かれる役人のことや、行政のシステムについては、わたし自身も垣間見た内容そのままだと思った。本の中では、アルツハイマーに罹った隣人が強制的に施設に入居させられるまでに、家族が抵抗すれば二年かかるというエピソードとして書かれていたが、スウェーデンでは行政の行った判断について、個人が異議を唱える権利がいかなる場合でも保障されている。書面によって何度も、長期に渡ろうとも、不当だと思う件について、異議を申し立てることができる。しかしながら、ほぼすべての場合、結論は同じ。申し立てが認められて、老人がホームに入居しなくてよいとか、支払うべき税金が減るなどということはまずないのだ。ただ、プロセスとして権利を主張する場面があるというのが、特徴的だと思った。
男の名前は、オーヴェ。原作のタイトルは直訳すると「オーヴェという名の男」となるので、まさにこの話のタイトルにぴったりだと思う。スウェーデンのその時代を実直に生きた男を描くことで、社会の変容ぶりが浮き彫りになっている。「幸せなひとりぼっち」という邦訳は映画のタイトルにつけられたということなので、スウェーデンが世界有数のしあわせな国であると言われていることや、超個人主義社会の孤独を意識した上での訳なのかと思った。
来るべき自分の老後のために参考になった… とは思わないけれど、人生に関するひとつの示唆があったことはまちがいない。社会がどうあるべきか、ということとは別に、自分がどう生きるか、はやはり大事なことだ。オーヴェは自分で食事を用意し、日常を営むことができる。自動車を修理することができ、家を直すことができる。愛想がなくても、iPadがなにかを知らなくても、「すてき」でなくとも、自分の生活に責任をもって、自分で営むことができるひとりの人間だった。

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  • by Tamihime
  • 2018/01/04(Thu)22:28
  • Edit
原作を読まれたのですね。私も読んでみよう。映画は原作に忠実とは言えないですからね。
スェーデンに住んでいた砂漠人さんには映像で見ると懐かしい景色が見えるかもしれませんね。

Tamihimeさん

  • by 砂漠人
  • 2018/01/07 02:42
本で描かれた情景も、すべて自分が住んでいたフラットに重ね合わせて読みました。スウェーデンの住環境は均一的な面があるので、おそらく大きくは外れていないと思います。映画も観る機会があればうれしいです!

無題

  • by May
  • 2018/01/05(Fri)12:05
  • Edit
私も読んで参考にしようかな。
子供たちはすっかり自立し、NZの家でも一人暮らしのようなものなので、本気で「自分を楽しませる方法」をただいま模索中。
今日もヒレカツ食べに行くか!(笑)

Mayさん

  • by 砂漠人
  • 2018/01/07 02:43
妻を失い、解雇されたとはいえ、オーヴェは59歳ですから老後の話でもなかったですかね。「一人暮らしのようなもの」と「一人暮らし」には大きな違いがありますよ! いずれにしても、人生いろんな面で努力しないといけないなあと日々思わされます。

読んでみたい

  • by まつざわ
  • 2018/01/06(Sat)20:26
  • Edit
本を読み切るという事が人生でほぼなかったのだけれど、これから先も読む時が来るのだろうかという気もするけれども、読んでみたいと思います。

まつざわくん

  • by 砂漠人
  • 2018/01/07 02:43
それは… 難しい本を読みすぎたか、人生リア充すぎたか、でしょうかね。小説なので簡単に読めましたよ。しかしある程度年をとってから本を読むと(ドラマを見てもですが)、涙が出やすいですね(笑)。

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プロフィール

イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

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