忍者ブログ

砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   

決意 2018

タロ子の仔は、やはり戻っていない。盗まれた翌日、ハリルは子犬の鳴き声が聞こえないかどうか近所を廻ると言って出かけた。そんなことで見つかるはずがないので期待はしなかったが、バイクに掛けたホルジュンに子犬を入れて戻ってくるハリルを何度か想像した。しかし現実には、それは起こらなかった。
辺りを廻って、子犬を見つけたらお金をやると触れ廻って来たようだ。一瞬、名案だと思ったけれど、やはりそんなことで見つかるわけはないと思う。それに、誰かが面倒を見ていたとしても、もう三晩も母犬から離されていることが気がかりだ。タロ子はその晩、鎖を外しておいた。何度も空き地の方へ行き、戻ってきては庭で子犬を待つように見えた。睡眠から目覚めるたびに、「わたしの赤ちゃんがいない」と思っていることだろう。本当に申し訳ないことをしてしまった。子犬を置いた場所やタロ子の行動を見るたびに、胸が詰まるようだ。しかしタロ子には、子犬のときに捨てられて以来いつも一緒にいたジロ子の存在がある。ジロ子は以前のようにタロ子に走り寄って、彼女を舐めたり乗ったりしてじゃれている。タロ子もそれに答えて遊んでいるように見えるのが、唯一の救いだ。
イランに移住して以来、正確にはクミシュテペに移り住んで以来、この社会のことを知らないがために戸惑いの連続だった。戸惑いというよりは、怒りや落胆の方が多かったと思う。雇っている羊飼い、出入りする職人、そして仕事の機会を与えた甥までもが泥棒だったり、隣人が常識を欠いていたり(これはどこでも一緒か)、犬や猫をゴミのように扱う人間もたくさんいて、トルクメンという人種が大嫌いになった。もちろん、人によるという考え方もあるが、じゃあ「いいトルクメン」は一体どこに? と思ってしまう。一人だけ、ハリルという人を知っているが、彼がためにこんな場所に来てしまったのだった。
しかし彼らの暮らしている状況を知ったあとでは、逆に彼らを悪い人間と決めつけることもできなくなってしまった。なぜならば、この社会の状況が泥棒を頻出させているのだろうし、先進国のように犬猫を愛でることができる状況に生きていないということは分かるからだ。それに、日本で生まれてどちらかと言えば西側の教育を受けてきた自分の持つ倫理観で見るから「違う」と感じるだけで、ここにはここのモラルがあるのだろう。それをわたしは守れていないのだとも思う。思いつめると、こんな場所は去ってしまおう… となるが、わたしを頼りにしている犬や猫がいる。それに、自然環境や食べものなど、実際は日本でもスウェーデンでも体験できないようなすばらしい状況があり、自分にとっては夢のような暮らしを実践していることも確かだ。だから、ここでやっていきたいのだ。
ハリルはイランでも日本でもない、第三国(泰葉じゃないよ)に移り住むことも視野に入れているようだ。それも悪くないけれど、現実にはここに動物がいるし、日本にはわたしの両親もいて、年をとっている。当面、可能な限りは、クミシュテペで暮らしていくのがいいと思っている。犬泥棒やその他の困難に対しては、これまでもかなりのストレスを感じてきたし、これからもそうだろう。しかしわたしはそれらに対して「ぶっ殺してやる(by 冨永愛)」という覚悟で向かっていくつもりだ。夜中に小屋の中を探し回ったり、外に出て呆然と立ち尽くしているタロ子を見て、心に誓う。本当は犬泥棒に向かって言いたいけれど、ブログに書いて今年の決意表明としたい。

子犬がいなくなった庭で。タロ子と猫

(注意)わたしの決意は「ぶっ殺してやる」じゃなくて、困難に屈せず、立ち向かうということです。

PR

COMMENT

NAME
TITLE
MAIL(非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS(コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます

No Title

  • by とむとむ
  • 2018/01/16(Tue)18:43
  • Edit
!!!!なんとそんなことが!!!
ほかのオス犬や猛禽類の可能性はないでしょうか?
小さな生まれたての命を思うとつらいですね。。

とむとむさん

  • by 砂漠人
  • 2018/01/17 03:12
雄犬や猛禽類? なるほど~。可能性はゼロではないですが、かなり低そうです。人間でしょうね。
今となっては、人間にミルクをもらっていると願うしかありません。

No Title

  • by paprica
  • URL
  • 2018/01/20(Sat)05:50
  • Edit
注意書きを読んで二度笑っちゃいました。
そうね、それくらいの「勢い」を持って立ち向かってちょうど良い結果がでそう。
不便さや理不尽さや辛さが溢れている環境におかれているから培われる強さがあるのだろうな、って想います。 クミコさんの心の畑に、巨大な耕運機が運ばれてきてガンガンと土をかえして耕されていく様子が目に浮かびましたー(いつもよくわからないたとえですが、伝わるでしょうか?)

papricaさん

  • by 砂漠人
  • 2018/01/21 15:22
耕運機のたとえ、なかなかいいですね! そうそう、(心の)土から作り変えないと。という構えです。生活に慣れてきて、ちょっとなよっとした自分に戻りかけていたので、兜の緒を締めねば。

プロフィール

イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

P R

Copyright ©  -- 砂漠人5 --  All Rights Reserved
Design by CriCri / Photo by Geralt / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]