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砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   

大麦畑と酪農、誘拐について

前回の記事。思わせぶりに書いてしまい、わりと大きな誤解を招いたようなので、二つのことをさらに書き足しておこうと思います。コメントをくださった方へのお返事のような感じなので、今回は丁寧語で。

一つ目は、わたしがいま草刈りをしている大麦畑と酪農の関係です。
海辺の町であるクミシュテペの主な産業は漁業ですが、その他にも農業や牧畜業があります。うちは小規模ながら牛と羊を飼っているので、牧畜をしている酪農家ということになります(ハリルがモンゴルで始めたのは、これとはまったく関係ない仕事)。
大麦や小麦の畑は農家が所有していて、作物を植えて収穫しては売り、それが彼らの年収となります。農家によって所有する畑の大きさは異なりますが、クミシュテペ全体の田園地帯は、住宅街から海までの「砂漠」と呼んでいる土地を埋め尽くすほど広大です。作物が植わっていない時期は、畑には雑草が生えるので、そこが「草原」「空き地」「砂漠」といった状態になり、誰が歩いてもいいし、伝統的に牧畜をしている人が家畜の放牧をしてもいいということになっています(その慣習を嫌がって、家畜を入れないようにする農家もいます)。今の季節は草が大きく伸びるので、酪農家は牛や羊に食べさせるために各地を回って雑草を探します。わたしが刈っている場所のように、麦畑の端や畦道によく生えています。雑草だけを刈り、袋に入れて持ち帰り、自分の家畜に与えます。作物にはもちろん手をつけません。大麦を刈り取ったらそれは「収穫」になるし、「窃盗犯」になってしまいます。あくまでも、雑草の草刈りなのです。
作物がない場所に家畜を連れて行って放牧をしてもいいですが、家畜はたいがい雑草より作物が好きです。畑に入って作物に手をつけてしまったら、農家への弁償が大変なことになるので、そうならないよう見張るか、繋ぐ必要があります。そういう作業を、酪農家は毎日しています。うちの場合だと今はナーセル夫婦がしているので、わたしは彼らの作業を少し手伝おうと、草刈りを担当しています。刈った草は、夜ナーセルたちが牛小屋を去るときに餌場に入れられて、牛たちはそれを食べてから休みます。牛は、餌をいくらでも食べることができる家畜なのです。

二つ目ですが、それは誘拐の可能性についてです。
イランで「内臓の売買という犯罪がある」と書いたために、その言葉に大きなショックを受けられたかもしれません。しかしそういった犯罪は非常に稀なことでしょうし、過去にクミシュテペで発生した事例はありません。「内臓の売買もあるし」と言ったのは噂話が好きなお向かいの奥さんであって、わたしはそれを聞いたとき、逮捕された「車に乗った七人のペルシャ人」は、薬物中毒者だろうと思いました。人気のないところで薬物を摂って、たまたま一人でいた男にいたずらしようとでも思ったんじゃないでしょうか。クミシュテペの砂漠は今は収穫前の麦畑ですから、内臓を取るために人を誘拐する目的で来る場所ではないです。クミシュテペの住民は誰も、「どの一族の誰」という肩書で知られ合っています。だからよそ者が来れば、その言動はすぐに人々の記憶の中に記録されるので、ここで誘拐をするリスクは高すぎるのです。
お向かいの奥さんは毎日のように集まりに行っては噂話をし、道端で立ち話をし、町中の人と情報交換をしています。だから多くの出来事を知っているし、それについての尾ひれもきっとついていることでしょう。しかし他の多くの女性と同じように、実際に一人で砂漠に行ったり、草刈りをしたことはない人です。
わたしが草を刈っているのは午前8~10時で、酪農家が牛や羊を放牧し始める頃です。見えなくなるほど遠くへは行かないし、毎日同じ人たちが放牧したり通り過ぎたりしている場所に、よそ者が入ってきたら皆がすぐに異変を感じます。そして監視されるでしょう。都会とは違い、一見何もないように見える風景でも多くの人の隠れた目があるし、砂漠人たちの眼力というのは都会人の想像を超えています。わたしには点にしか見えない人影も、男女の別を見分けるし、誰が何しにどこへ向かっているか、分かってしまうのです。そういう意味で、広大な麦畑で一人で作業をしていても、わたしは自分を一人だと感じてはいません。ナーセルも危険だと考えていたら、わたしに草刈りをやめさせるでしょう。ハリルも同じで、危険な場所だったら、わたしを一人住まわせたりしないです。わたしに長いあいだ自転車を買い与えなかったのも、クミシュテペの悪質な道路とドライバーを鑑みて心配だったからじゃないかと、今では分かってきました。彼自身は非常に慎重なドライバーですが、それでもバイクに乗っていたところを後ろから車にはねられた経験があるので、なおさら心配なのだと思います。

以上、大麦畑と酪農の関係、そして誘拐の可能性についてでした。長すぎて、読まれないことがありませんように(笑)。

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  • by paprica
  • URL
  • 2018/04/24(Tue)03:43
  • Edit
ほほぅ、ほほぅ、と何度もうなずいてしまいました。 とても良いお話です。砂漠ならではの暮らしの知恵やつながりに気付かされ、ほほぅとうなりました。くみこさんが何故、朝のうちに4袋の草をかき集めるのか、ドラマチックなうわさ話もエンターテイメント性があるということ、ローカルの人たちの目がセキュリティカメラの役割もしているということ、とても興味深いです!

papricaさん

  • by 砂漠人
  • 2018/04/25 01:34
どの場所も、悪い面は強調されて伝わるんですよね、外部には。ブログではくどくならないように淡泊に書くので、伝わらないことが多いかもしれません。
ここも大体においては平和な場所なんですが、薬物中毒やコソ泥が多いのも確かで、でも問題なく過ごせています。そうだ、泥棒はいつも身近な人でしたよ。雇い人とか。

No Title

  • by May
  • 2018/04/24(Tue)07:58
  • Edit
やっぱり草刈りされてたんですね~
そして砂漠には人の目がある、というのが分かりました。
日本の都会でも危険な事件はありますからね、どこが安全ということもないのでしょうけど。

Mayさん

  • by 砂漠人
  • 2018/04/25 01:35
危険の種類が場所によって違いますよね。日本みたいに田舎が過疎化していると、人の目もないだろうし。ここは超多子化ですから! その代わり、チーニ言われまくって不快です(笑)。

プロフィール

イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

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