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砂漠人5

トルクメンサハラの暮らし

   

「みんなで一つ」の社会(前編)

 先日入院したのは、隣町の国営の病院だった。そのため、患者は地元のトルクメンがほとんどだ。医師や看護士は基本的にペルシャ人のようだったが、土地柄なのかトルクメンも少なからず混じっていた。
 イランは多民族国家と言われていて、現政府はペルシャ人の政府だが、国内各地には少なくない種類の少数民族が暮らしている。トルクメンもその一つで、彼らはトルクメニスタンに接する国境地域に多く住むトルコ系の民族だ。ペルシャ人とは言語や文化を異にするものの、国籍はトルクメニスタンではなくイランなので、この地域のトルクメンもイラン人(Iranian Turkmen)である。しがたって、言語にも文化にも、ペルシャの影響が大きく表われている。この地域内では日常生活にトルクメン語が使われているので、わたしはペルシャ語(イランの国語)ではなく、トルクメン語を覚えたのだった。
 さて、病室はコの字型に近い形をしたフロアの壁際に十台くらいベッドが置かれていて、一角にはナースステーションのようなカウンターがあり、ナースが座っている。プライバシーが欲しい場合は天井のレールにぶら下がったカーテンを引くこともできるけれど、それがあるベッドは限られていた。プライバシーという言葉は、トルクメンにはあまりなじまないのかもしれない。一人の患者には必ず2~3人の付き添いがいて、日本では病院のスタッフがしてくれることを家族がしている。なので、付き添いはほとんどが泊まり込み、24時間体制だ。
 それに加えて、見舞客がやたらに多い。産婦人科だったので、赤ちゃんを産んだ患者が多く、そのお祝いさながらに一族揃ってお出かけだ。小さいこどもまで連れてくるので彼らが騒がしいし、おばちゃんたちは立っているのに疲れたら、隣のわたしのベッドに腰かけていた(もちろん、わたくしそこに点滴をしながら寝ております)。
 そんなカオスの中、最初は自分の具合が悪くて眠っているだけだったのだが、回復してきてからは病室の様子を観察することができた。いやだなあと思うことがたくさんあったにも関わらず、印象に残っていることは、誕生した赤ちゃんを見に来たおじいさんたちの嬉しそうな顔だ。
 お産を終えてベッドに横たわっている女性たちが、特別に具合が悪いのかどうかは分からなかったが、どの人もみんなぐったりと寝ているだけで、付き添いの女性たちが赤ちゃんを抱いたり、ミルクをあげたりしていたようだ。自分で歩くことができない女性もいたけれど、旦那さんが来たら寄りかかってより一層きつそうにしていたので、演技も多少入っているのだなと思った。とにかく、お産がそのくらいに母体にダメージを与えるということは、視覚的に理解できた。牛や犬、猫とはかなり違っている。
 ある朝、お産をした女性の義理のお父さんらしき人がみえた。その病室は原則的に男性が入ってはいけないことになっているので、入り口で一礼をし、周りの患者に会釈しながら静かに入ってきたその男性には好感が持てた。白いイスラム帽を被っていた。ゆっくり歩いてお嫁さんのベッドまで行き、赤ちゃんをのぞき込み、とってもうれしそうにしていた。赤ちゃんを手渡されて、両手で自分の顔の前に持ってみて「ゴウィ(いいね)」とひとこと言ったら、またすぐに誰かに渡していた。大事すぎて、どう扱っていいか分からないといった様子だった。そして、おじいさんが赤ちゃんを抱いたとき、周りにいた奥さんや親戚の女の子、みんながとても柔らかい笑顔で見守っていて、一寸先から眺めていたわたしもそのしあわせな空気に包まれた。ほわ~んとじんわり温められるような、安心感だった。

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ディジー

 料理するのが面倒なとき、ディジーは最適の一品だ。材料を鍋に入れて蓋をし、弱火にかけておけばできあがる。でも前の晩にひよこ豆を水に浸しておく必要があるので、料理をさぼりたい気持ちも前日から用意しておかなければならない。


 羊肉、羊の脂、ひよこ豆、じゃがいも、トマト、たまねぎ、ドライレモンなどを入れる。スパイスはクミン、ターメリック、チリなど。何時間煮込んだかわからないほど適当に、ときどき蓋を開けて様子を見るだけだ。最初のうちはアクが浮いてきたら集めてとる。一貫して弱火なので、きれいなスープができあがる。
 この料理は、人里離れた放牧地である砂漠でも簡単にできる。ユルタの中にはストーブがあるので、その上に乗せておけば留守にしていても調理されるだろう。

二人の食事の時間がずれたので、小分けにした


 スープにはパンをちぎって入れておく。スープを吸い込んでやわらかくなったパンをスプーンに乗せてむしゃむしゃ。残りの具はまとめて潰して、パンにつけて食べる。生のたまねぎを添えるのも一般的だ。わたしは今でもトルクメンのパンの扱いがうまくならず、つまりパンに挟むとか乗せることができないので、いつも別々に食べて胃の中で一緒にしている。

入退院

 朝8時に予約した隣町の病院に、思いがけず二泊することになったものの、急場はしのぐことができた。今は自宅に戻り、膿んだことによる痛みもなくなり、安心している。
 しかしどんな処置をされたのか、いまいちよく分からないでいる。簡単な手術をしたとのことだったが、全身麻酔で記憶はないし、ドクターの説明も必要最低限しか理解できなかった。いま飲んでいる抗生物質をいつやめるべきなのかも分からない。要するに、いつもの調子なので、よしとするしかないだろう。
 入院中、いろいろなものを見聞きした。普段はほぼ自宅の中で生活しているので、その情報量に圧倒されてしまい、ブログに書くためにはそれらをどう処理したらいいか分からないほどだ。とりあえず、いつもどおり子犬や子猫を見てこよう。
ハンサムくんです
癒される~

猫のごっこ遊び

 いま庭には、六ヶ月未満の月齢の子猫が4匹いる。ガウシャンの息子プシプシと、タイちゃんの子猫3匹だ。遊び盛りで、とくに黄色い猫が好奇心が強く、活発だ。プシプシもそうだが、オスの方が子猫のときに活発かもしれない。ときどきガウシャンにぶら下がってその3~4匹がおっぱいを飲んでいる。しかしガウシャンが出産したのは半年前。おっぱいが出ているはずがないのだ。だからこれは、おっぱいを飲むふりを楽しむ「ごっこ遊び」なのだなと思っていた。
ガウシャン親子
 そんなある日、家の中からふと外を覗いたら、彼らは玄関前でまたおっぱいごっこをしていた。でもよく見ると、母猫役はガウシャンではなく、ガウシャンの息子プシプシだった。雄の子猫のおっぱいにぶら下がる子猫たち。声をあげて笑ってしまった。

バルトリン問題

 体の一部の具合が悪くなり、しばらく様子を見ていたのだが、いよいよ病院に行かざるを得なくなった。婦人科マターで、患部が局部なので気が重く、自然治癒を願っていたのに悪化という始末だ。
 この病気は二十年以上前からときどき現われていた症状で、バルトリン腺が腫れるというもの。気になる人は、「バルトリン腺炎」や「バルトリン腺嚢胞」で検索するといろいろ出てくると思う。十年前にスウェーデンで穴を広げる手術をしたことで治り、さっぱり忘れていたけれど、ここに来て再発してしまった。クミシュテペのクリニックに行くと、トルクメン語は話さないペルシャ人の女医さんが診てくれて(通訳なし)、隣町バンダルの病院に行くようにとのことだった。診断書も紹介状もなく、口頭での指示だけだったのでどうなることかと思っていたら、偶然出てきてくれた別のドクターが助けてくれた。彼はハリルの知人で、いつもなにかしら助けてくれる。
 彼に連れられて、ドクターたちが待機する二階の部屋に行くと、別のドクターと相談の上、なにか手配をしてくれたようだった。わたしの受けるべき手術は簡単なものだそうで、バンダルの手術室を予約する必要があるということだった。一階にいるまた別のドクターに手配を頼んでくれたので降りていったら、最初に診てくれた女医さんが出てきて、その手配をしてくれた。なぜ最初からそうしてくれなかったのかと後でハリルに聞いたら、おそらくわたしが英語を話したので、金持ちの外国人だと思い、私立の病院に行くよう指示したのだろうという。貧しいクミシュテペ民用の保険証も見せたのに、女医さんは初め、それは使えないと言ったそうだ。私立のドクターは手術室を持っていないため、国の手術室を借りることになり、わたしは多額の医療費を請求されるところだったろう。予約までの時間も長くかかるだろうし、このヘルプは大きかった。わたしはたしかに金持ちの外国人かもしれないが、ここクミシュテペで、貧しいクミシュテペの人と同じように暮らしているのだ。日本に戻ってお金をもってくるくらいだったら、日本で医療を受けたい。と言いたいが、そんな理屈は通じないだろう。
 結局、三日後の朝、その病院に予約を取ってくれた。腫れは大きくなってきているので、それまで絶対安静だ(自己診断)。しかしわたしが受けるのは手術ではなく、「処置」だと予想している。注射器で局部から膿を抜くという、恐ろしく痛い処置だろう。受ける前から泣けてくる。
 ハリルの友人ドクターのヘルプは大きかったが、それ以上に有用な情報も手に入れた。彼が言うには、クミシュテペの経済ももう機能しておらず、人々は騙し合いながらお金を得て生活するしかなくなっているとのことだ。彼も鶏ファームを持っていたのだが、少し前に手放していたので、本当に運がよかったと言っていたそうだ。そういえば、このあいだ居間の扇風機を直しに来た職人も、いい加減な仕事をして帰っていった。彼が帰った後、扇風機が傾いて落ちそうになり、危うく怪我人(または死人)が出るところだったのだ。扇風機はその後、別の町から職人を呼んで、2~3倍の料金を払って直したので今のところよくなったけれど、プロペラが古いのでそのうち替える必要がある。


 気を取り直して、かわいい子猫を見よう。どうやらオス・メス半々のようだ。黄色が二匹オスで、白っぽいのと黒がメス。黒いのは顔と手足の先っぽが黄色く、また首回りが黄色い、おもしろい色をしている。もう少ししたら、ライトを当ててきれいな写真を撮りたい。

不穏な日常

 今日は朝から強風で、桑の木が真ん中あたりから折れてしまった。おまけに「庭の太陽」と崇めていた梨が、根元に落ちていた。気分が落ちる要因がなぜ重なる?

折れた桑の木。のこぎりで切り落とした

落ちた梨の実!

 しかしこれらのことは、大したことじゃない。イラン国内は今、かなり混乱しているのだ。アメリカのトランプ大統領がイランに対する制裁を強化したことが影響して、テレビやラジオでは伝えられていないものの、テヘランでは多数の反政府デモが起こり、金融の機能は停止していると聞いた。ずっと共に仕事をしていた、テヘランにいるハリルのパートナーが、「スウェーデンに移った方がいいよ」と助言してきたそうだ。モンゴルでの商売も、なんとか保てていたものが、これで台無しになる可能性が高い。そうなったら、わたしは一生あの大統領を恨むだろう。五ヶ国が何年もかけて協議したことを、一人で勝手に覆す権利はないと思うし、こちらは大迷惑を被っている。
 不満を言ってみても、起こるべきことは起こるだろう。一体イランはこの先どうなるのか? 誰にも分からないだろうが、自分の人生が政治に翻弄されるだろうという予想は立つ。この国を出ることは、誰もがまず考えることだから、わたしも考えなければならないが、状況が見渡せないと考えもまとまらない。まったく人の人生・生活というものは、ちっぽけなものだと思う。政治や自然災害のために、簡単に蹴散らされてしまうのだから。


 そんな中、キティが出産した。朝から鳴きつづけてうるさいくらいだったけれど、今日だったのか。自分から段ボールに入っていて、気がついたら4匹がぶら下がっていた。でも家の中での出産を選んでくれたことは、うれしかった。

カレーライス

 ひさしぶりにカレーライスを作った。ルーたっぷりの日本風カレーライスはハリルが苦手なので、カレーにしたらハリルは別の煮込みを食べるかと聞いたら、「そこまでエゴイストじゃない」と言った。つまり、わたしが食べたいのなら、自分は苦手でも同じものを食べるという。

イェ~イ! カレー!

 吉祥寺に武蔵野文庫という喫茶店があって、学生時代に友人に連れられて行った。名物のカレーライスを頼むと、いつもじゃがいもがゴロっと一つ入っていたという印象なのだが、あらためて検索してみたら、そうではないようだ。二十年以上前の思い出だから変わったのかもしれないが、これはずっとわたしの記憶に残っていて、今日はそのイメージで作った。

羊肉をチェクディルマの要領で煮込んで、骨を除く

ジャガイモはまるごと、ナスやスクウォッシュも大きめに

武蔵野文庫じゃ~

 赤いチリも入れてピリッと辛く、わたしは大満足で食べたけれど、ハリルはなにも言わなかった。普段はなにを作っても必ず「おいしい」と言ったり親指を立てたりするのだが…。そして明日の朝は、これを温め直して牛乳を入れて、カレースープにして食べようと思う。母はカレーの残りをそうしていたので、こどもの頃から食べ慣れていて好物なのだが、ハリルにとっては気味の悪いスープになるかもしれない。出さないけど。

 おやつのレシピに、ごまクッキーが加わった。ごまクッキーは前からあったが、これは見た目が違うのだ。バニラクッキーをアレンジして、グラニュー糖をまぶすべきところにごまをつけた。





 レシピどおりの配合で作ったら、甘さがたりないと感じた。グラニュー糖をまぶさなかった分、生地に砂糖を増やしたほうがよさそうだ。こどもたちに聞いたら「あまい」と言っていたけれど、(自分の)食べすぎ防止のためにもっと甘くするつもり。


 今週も夏野菜がおいしそう。チリビーンズ風の煮込みにして、もりもり食べている。面倒なので、みじん切りはやめて、すべて大きめカットだ。スイカも値上がりしたけど、まだこれだけ買えている。


ハリルの靴は30cm

プロフィール

イランのトルクメンサハラに移住した日本人クミコです。中央アジアの少数民族トルクメンの夫と、その家族や動物との日常を綴ります。
2006年にスウェーデンで始めたこのブログは、4回引越をして今に至りました。過去のサイトはリンクより閲覧できます。

連絡先:sabakujin at gmail dot com

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